<BOSS THE NK(最終スパンクハッピー)の回想録(23)>

 

  ODは予想通り、<アガる>という心理自体を知らないようだった。「GREAT HOLIDAY」に向けてリハは着々と進み、ODは既に、スタッフや関係者の前で、歌いながら踊れるようになっていた。

 

 

 

 前々回に説明した通り、「口パク」は第二期とのシュミュラクラという側面もあるが、菊地君がいきなり、歌いながら踊れる人になる、というのは、いかにファイナルスパンクスに気合が入っている、という設定にしても、現実的に無理すぎた。つまり、ODは鞘に収めたのだ。

 

 

 

 私のコレオグラフは菊地くんも大変気に入ってくれた。「スターティングセットとしては上々だ。でも、スキルフルにはなんないでね。こいつ、ガチでやらせたら世界大会とか出そうだから(笑)」「分かった。落とし所について、後でミーティングしよう」。菊地くんは、スキルフルの時代(彼に言わせれば、「不景気または戦前」)にアゲインストしているわけでも、単なるバブル期ノスタルジーでもなく、何か、「ヘタウマ」にオブセッションがあるように思える。

 

 

 

 我々は「ヘタウマがスキルというフィルターを通過して、ウマウマと混血した、いわば<フェイクヘタウマ>というスキルによって、時代を撃つ」と考えており、それは実のところ、現在でも模索中だ。現在、ダンスは世界中で「キレッキレ」を黄金として疑わない。「俺はキレッキレすぎるのはちょっと、、、」という声は聞いた事がない。歌唱力もそうだ。キレッキレであることを最上とするなら、多くのコレオグラファーもダンサーも北朝鮮に留学すべきだろう。あそこの軍事パレードこそ、70年代から、キレッキレに切れる、恐ろしいほどの群舞として、5万人弱の大変な人数をまとめている。ロシアから銃火器を輸入しているので、AKB4万8千である。

 

 

 

 菊地くんが「look1」とした衣装のセットアップも決まった。キューブリックとエロチカのコラボグラスは、既に全員が「ODグラス」と呼んでいた。プラダの、上半身がスクールガール風のシャツで、スカートがコットンクラブの黒人ストリッパーのように鳥の羽だけで出来ているコンバイン的なワンピースは、菊地くんがODを目にする前から決めていたものだ。ダンス時の安定性と、足が綺麗に見える角度を両立させるために、アディダスの、デニム地でソールがハイヒール式に爪先立ちになっているスニーカー、そこに、菊地くんの盟友である、「水中ニーソ(元)」の古賀氏がデザイン&販売しているニーハイソックスをコーディネイトし、全体をギリギリで東京スタイルにまとめている。

 

 

 

 ニーハイソックスは実のところプラダの製品(純正品)も購入していたのだが、何100回も履かせ直した結果、「まあ、オタク感もう1滴かな」と言って、菊地くんがプラダを退けた。私は全て菊地くんの私物で、菊地くんが一時期、広告塔とモデルをやっていたクールストラッティンのタキシードのインナーにメゾンキツネのTシャツ、シューズはGGDSとコンバースのコラボスニーカーだった。汗にならぬよう、このセットアップによるリハーサルは、前日にゲネプロ一回分、つまり20分間だけ行われ、すぐに脱衣して衣装は保管された。ODは何を喰わせても美味い美味いと言って喰う、育ち盛りの体育会学生のように、何を着せてもひゃーひゃー言って喜んでいた。

 

 

 

「すげー!!自分、天使みたいじゃないスかー!ボスもカッコイイ!!アカデミー賞みたい!!」

 

 

 

 我々が業務上の注意点として厳重にチェックしたのは、羽だけで出来たスカートがターンやスピンの時に、アンダースコートを見せてしまわないように、つまり、ODがダンスハイになって、旋回系のムーヴを派手にやりすぎないように言い聞かせることだった。ストリプティーズは神話時代からある最古の職業で、、、、、などと、昭和の訳知り顔のようなカビの生えたことは言わない。しかし、開示系ではなく、閉鎖系のクロスが繰り出す、いわゆる「チラ見せ」の効果について、女性たちがどう捉えているのかは、二重三重の自意識の構造を濾過した上で、結局品性としか言いようがない。

 

 

 

 ODは「パンツが見えるのなんて何でもないじゃないスか!なんで大きく回ったらダメですか!!パンツ履いてるから良いじゃないスか!!」と、むくれる。というタイプで、こう書くと、単に無邪気という風に読めるだろうが、何せ、最初に着替えを命じた時にいきなり全部脱いで、驚いた我々を見て更に自分が驚いた。という事があった。言うまでもないが、私と菊地くんはロリコンではない(ロリコンを肯定も否定もしない)ので、裸体に対するイノセンスや無防備を愛でると言うセンスはない。

 

 

 

 それよりも、何故ODが、自意識や羞恥心や恐怖、そこから導き出される顕示や攻撃や防御といった事の偏差値が極端に低いのか、記憶喪失の症状との関係も含めて、非常に興味があった。そして二人ともそのことは暗黙の了解で口にはしなかった。二人だけでいる時でさえ。

 

 

 

 たった20分間のゲネプロには、多くのスタッフに混じり、小田さんも見学に来ていた。「ミトモさーん!」「OD、カッコ良いね」「本当スか!!」「はいこれ食パン」「やったじゃないスか!!」「もう終わりなんでしょ。あっちで一緒に食べ、、、、あははははは」。ODは既に食パンの塊にかぶりついていた。そして、これが我々の命運を左右することになるとは、この段階では誰も知る由はなかった(もちろん、食パン丸かじりの事ではない)。