菊地成孔の選ぶ、ブルーノート東京のワイン(加筆修正あり)

May-02-2011

 

 


 <0>はじめに


 来る5月5、6日用のワインをお選びしました。特定の店のワインリストを特定の関係を持つ部外者(ここでは「出演者」になります)が拝借し、特定の銘柄をルコマンデするというのは、シンプルに申し上げて非常に珍しく、ジャズ史上に於いては、少なくとも我が国では初めての事でしょう(ワタシの不勉強により、ここでビハインドされている前例を御存知の方は是非ご報告ください。とても素晴らしい事です)。ブルーノート東京さんとワタシで、美酒への崇拝の念そして遊び心を共に共有出来る事を大変嬉しく思います。 

 ジャズメンのパブリックイメージ、特に創成期から1950年代までの彼等の好物と言えば第一に麻薬、第二に女性であると思われがちですが、彼等が麻薬や女性を決して愛でなかったとまでは言わないまでも、空中の美を捕まえ続けて生きる彼等が美酒美食を愛でなかった試しはなく、仔細に研究するならば、人種差別的なバイアスにより隠蔽されていた、彼等の非常に趣味の良い愛飲酒、愛食料理の記録が数多く出てきます(そして、多くが大食漢でした)。

 私感では文人は悪食が、音楽家は美食家が座りよく、パーカーのシャンパーニュの趣味、ミンガスのカクテルの腕前、アートテイタムのワインの私蔵ぶりなどと比べるとき、南部料理と子供向け菓子パン類、ジュースとペリエの中毒だったマイルス・デイヴィスの偏りは、ある意味で「ジャズメンとは思えないほど」と言う事が出来るでしょう。勿論、ガンボ等の南部料理を下等と言うのではありません。もっと日本でも食されるべき素晴らしい食文化ですが、甘い物としょっぱいものばかり交互に食べ続けたーー重い糖尿病でしたので、ある意味「命を賭して」というほどーーマイルスの幼児性は、同じ幼児性でも、パーカー等ビーバップのオールドスクーラー達の持つ深い諦念に欠ける、伸び伸びとしたそれであり、その点だけでもかなり異色であった。と、これは拙著が文庫化される夏をお待ちください(菊地成孔/大谷能生「M/D~マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究」)。

 音楽史上、最もワインに関して「悪趣味」だったのはプリンスであり、エシェゾーとパヴィオン・マルゴー・ブランを1対1で割り、自分なりのロゼ(!)として飲んでいました。存命中にも関わらず「だったのは」と過去形にしたのは、氏が現在はこういった輝かしいばかりの悪趣味を一切止めたからでありますが、その事と音楽との影響関係については、数多い氏の研究家諸氏にお任せするべきでしょう。

 とさて、滑り出しから脱線を続けておりますが、本日は全色選出して参りますので、強く印象にとどめられるか、一行残らず仔細にご記憶されるか、紙その他のメディアにプリントアウトされるか等し、実際にご活用くださると幸甚です。遊びごころの延長になりますが、以下の、ワタシのセレクトするブテイユがオーダーされた際は、終演後、僭越ながら選者としてワタシがブテイユもしくはエチケットにサインさせて頂きます。ブテイユは所謂瓶、エチケットは所謂ラベルの事です。

 さて、以下、いきなり斬った張ったのワインメイニアックな話となると、自動的に投げ出される方も多かろうと思いますので、ここはひとつ間口広く、ワインは好きだが、いつも何を飲んで良いのか解らないので適当にグラスのおすすめを呑んでいる、或はワイン自体を余り好まない、或は、そもそもジャズクラブと言わずレストランと言わず、外食に於いてワインを選んだ事が一度も無い。といった皆様へのご案内という意味合いも含ませて頂く事に致します。

 「ブルーノート東京でワインセレクト・デビュー」というのがどの程度の妥当性を持つのか、出演者であるワタシには公正にジャッジする事が予め不可能ですが、「何を喰ったかも憶えていない様なクリスマスディナーで緊張のワインセレクトデビュー(しかし次のクリスマスには別れていた)」よりは、些か妥当なのではないかと信ずるばかりであります。

 選出の基準は唯三つでありまして、第一にワタシが飲んだ経験がある事、第二にワタシがワタシ自身の音楽にマリアジすると思う事。そして第三に、最高価格帯を2万5000円以内におさえる事です。

 以上三つの基準が総て、本質的には流動性を持っているのは言うまでもないでしょう。1年後には価格上限は20万以内もしくは、5000円以内に移動しているかもしれませんし、そもそもこうして「ワタシが飲んだ事が無いだけで、もっとマリアジが良い物がリストにある可能性」は予め否定出来ません。

 ですのでこれは、当欄の前回に申し上げた通り、未だブルーノート東京のスムリエ諸氏が、ワタシの音楽に対して未経験に近いという状況的な特性が生じている期間内の遊びである旨ご理解ください。つまりこのリストは、二次的にはワタシ個人の努力により、三次的にはスムリエ諸氏の努力により、随時更新され、やがては消えて行くべきセリーの第一弾であるとも言えるでしょう。

 そして再び、当欄前回に申し上げた通り、これは一種の企業秘密でもありますので、価格に関しては上二桁まで、端数は四捨五入の表示で統一させて頂きます。ビギナーの方対応からスタートしますので、マニア諸氏に於かれましては<5>からお読み頂くのが時間の節約になると思われます。時間の節約が何の役に立つのかは、不勉強ながら解りかねますが。




 <1>こうしてワインをセレクトするとはどういうことか?

 

 ワイン(シャンパーニュ含む)は赤色(ルージュ/ロッソ)、白色(ブラン/ビアンコ)、薔薇色(ロゼ/ロザート)の三種があり、日本酒やビールや焼酎などと並び、食前、食中、食後のいずれにも使え、着席から退席まで貫通して飲める、ある意味でカジュアルな酒です。特に白は、デザートタイムに於いても尚、物によっては(一般的には、シフォンケーキ的な、エアリーな焼き菓子のときに特に)菓子と共に飲む習慣があるので、日本酒やビール等よりも守備範囲が一手だけ広いとも言えるでしょう(甘味用の食後酒として「デザートワイン」と俗称される、加糖なしに甘みを強くした領域、所謂ソーテルヌやレチョート類については、ご遠慮なくスタッフに「メニューに見当たらないのですが、グラスで頂けるソーテルヌはありますか?」とお訪ねください。そもそも飲食店には、前提としてメニューに記載されていないものがストックされている可能性があります。また、ソーテルヌは本来食後酒ですが、後述する通り、そうした従来的なルールは今は形骸化されており、着席からソーテルヌでも全く問題ありません)。

 20世紀までは、「魚介、白いソース、軽い塩気のものは白、肉、赤いソース、強い塩気のものは赤、ロゼは何だか適当にセンスで」といった法則がありましたが、ヌーヴェルクイジーヌからフュージョン食、バルセロナ初でニュースタンダードに成った未来派ビストロ(文字通り「スペインの宇宙食」ですね)、果ては「ちょい乗せ」文化効果によって、縦横に拡張された味覚領域により、現在では、こうした従来的な法則ほぼ形骸化しています(「完全に失われた」とは、口が裂けても申しませんが)。肉汁のしたたるビフテキに甘めの白がマリアジする場合もありますし、ソース無しの真鯛のポアレに完璧にマリアジする、南緯度数の高い地域で作られる赤もあります。

 ので、少なくともマリアジび関する作法や定則、つまりマナーやルールの類いは、実質上一切無いとお考えくださってこの際結構です。更に厳密に言えば、あなたの舌が、冒険的であるか、保守的であるか、大筋で自己理解されていればよろしい。「そんな難しい事解るもんか」と仰るアナタは、寿司屋でカルピスウォーターを楽しめるかどうか、パスタランチでブランデーを楽しめるかどうか、ビストロで日本酒を楽しめるかどうか、といった想像力と戯れて愉しんで下さい。ワタシの経験値では、稀に、縁側もしくは鱈、あるいはプルコギがカルピスウォーターとマリアジしますが、これは色合わせだけではなく、例えばマッコリとカルピスウォーターの近似といった構造も加味していると思われます。繰り返しますが、今やワインと食事のマリアジに権威的なルールは存在しません。

 と、申しますのも、このリストは、敢えて、あくまで「ワインと音楽とのマリアジ」だけを抽出して選出させて頂いておりますので、欠番もしくはクロスワードパズルさながら、肝心要の<料理>に関しては、皆様が最適値を埋め込んで頂く形になるからです。一般的には「迷ったら白が無難」と、まるでYシャツの生地のような話がまかり通っており、正にYシャツの生地程度には正当性が認められるものの、赤やロゼでないと到達出来ないゾーンは当然存在します。


 また、今でもまだあるのかどうか、フードメニューを拝借したものの、まだアナライズしておりませんので確約は出来ませんが、ブルーノート東京名物、リング型のポムフリット(フレンチフライポテト)がありまして、実のところこれは、白いYシャツ以上に、何にでもマリアジしてしまう魔法の食い物でして、私感では、ワインという物はそもそもパンと芋の為に作られた酒ですから、「1万円以上の銘柄が抜かれ、フードはパンとバターだけ」というのは、蕎麦屋で昼間から、海苔と塩をつまみに呑んでいる様な、つまりかなり粋な方。という事になります(「高級ワインにパンとバターだけ」はワタシも何度か試みた事がありますが、第一に料理長が悲しみます。その点、ブルーノート東京ではやりやすいかもしれない。しかしこれ、<一番安いグラスワインにパンだけ>になると、落とす金額の多寡とは別に、ムードとして、武士は喰わねど高楊枝の如くになりますのでご注意ください。それだったらお好きなカクテル一杯とオリーブだけの方が幾分か美しい)が、何れにせよフードとのマリアジは、今回の遊びの中からは敢えて除外し、皆様のチョイスの悦びを促させて頂きたく思います。

 また、ここまで書いておきながら更にテーブルをひっくりかえす様な事を申し上げれば、一番素晴らしく、一番危険で、一番悪い子のすることは「最初から最後まで、他の物は、食べ物はおろか、水の一滴も口にせず、シャンパーニュだけをひたすらやる」事なのは言うまでもありません。ドルジこと、元・横綱の朝青龍関のパーティーに出席した人々は、くるぶしまでシャンパーニュに浸かる事を覚悟して赴くそうです。野球に於ける、優勝祝賀のビールの如しですね。

 この荒ぶる、うっとりするほど危険で官能的なパーティーには、恐るべき事に、あらゆるマリアジの懸念は存在しません。おでんでもおにぎりでも、100円の煎餅でも、イワシの缶詰でも、フォワグラかナールのパテでも、猪でも、恐らく猫や犬でも、大福餅でも、みかんゼリーでも完璧にマリアジします。シャンパーニュは永遠で完全な独身者であり、最もエレガントなビッチであると言えるでしょう。そんな酒が我々を安全で平和な場に導くでしょうか。余談ながら、ここにテキーラが加わったのが世に言う海老蔵事件です。シャンパンにテキーラを加えると暴行が起きる、つまりそれは、ガスが充満した部屋に着火するのと同じ事なのだ、ということを成田屋の若頭とと元・Jリーガーはあられもなく公にしました。ワタシは、DCPRGの公演会場でバーが臨時で設置される時、他には何を置いても良いので、シャンパンだけは絶対に置かぬ様、厳重に注意しています。人命に危険が及ぶ可能性が飛躍的に上がるからです(テキーラ単体は、置いても良い)。




 <2> 量とは何か?




 

 くれぐれもご自分の酒量はお間違えなき様、これだけは無粋を覚悟で、最初に強調させて頂きます。ワタシは飲み屋の倅ですので、酒量を間違えてしまったお客様の無惨さが、他の何物にも代え難い無惨さである事を0歳の時から熟知しております。適正酒量内で大暴れする酒乱の方のほうが、適正酒量を超えて動けなく成ってしまう善良な方よりも、遥かに善良です。合わせて最初にお断りしておきますが、飲みきれなかった場合は、ご遠慮なく残して下さい。「残すと悪い/もったいない」等といって酒量を超えてしまう。というのは、社会性にとんだ善人に待ち構える罠です。

 味覚の想像力にはルールはないものの、物量には厳格なルールがあります。前述の通り、ボトルをフランス語でブテイユと言いまして、所謂ワインボトルの規格は750ミリリットル即ち1リットルに及びませんが、大きめのグラスにふくよかに注げば、概ね7~9杯という事になります。これは物理的な実数値ですので形骸化されておりません。

 しかし、一方で勿論、「水位1ミリずつ注いでは呑む」という、テイスティングの連続の様な、アヴァンガードな飲み方、或はグラスも使わずに一気に飲み干してしまう、といった豪快な飲み方をすれば、杯数だけは自由に調節出来ます(御自分で注ぐか、スタッフに注がれるのを待つかは、あなたが決定されることです。空になったグラスを前に待つ体勢を示し、目で合図すればスタッフが注いでくれますし、その反対は、その反対となります。少なくともジャズクラブに於けるこの領域にはマナーも作法も無いので、臆せずお好きにどうぞ)。お酒に弱い彼氏には2センチ、残りは全部彼女が飲んで、足りなくて追加のグラスワインも。などと言う光景は、今や都内のどのワインバーでも見られる光景です。

 メニューに「ハーフ/ドゥミ」と表示されているのは、正しく半量(375ミリリットル=約0・5号)の小瓶で、これは一部の銘柄しか存在しません(リストに明記されています)。また、小瓶ではなく、広口の容器にドゥミの量注ぐ、所謂「デキャンタ」というサーヴィスがあり、これは本来、注文したブテイユの味をふくよかで丸みのある状態にするために空気に触れさせる(ワイングラスを鎖鎌よろしくぐるぐる振っているのをご覧になった事がおありでしょうけれども、あれはカッコつけているのではなく、水面を空気になじませて味を変化させているのです。これを「開かせる」と言います)ためのサーヴィスですが、転じて、小瓶が存在しない銘柄を、小瓶の量だけ提供するカジュアルなサーヴィス形態も指すようになっています。

 ブルーノート東京では、「ハウスワイン」という括りがイコール「グラスでもデキャンタでも注文出来る」という形をとっており(因みにこれは一般的な事ではありません。ある種システマティックであり、良心的でもあります)、常時各色4~5銘柄ずつ用意されています。肝心な説明が最後になってしまった格好ですが、もっとも少量のサーヴィス法は「(バイ・ザ)グラス」といって、1杯づつ注文することです。

 また、20世紀においては、通過儀礼の如き恐怖を放っていた「テイスティング」という儀式ですが、これはボトルで注文をした時のみ行われ、「テイスティングなさいますか?」という質問をするスタッフと、しないで自動的に誘うスタッフがおりますが、21世紀も10年を経た今では怖い事でもなんでもありませんし、せっかくですので、最低価格帯のボトルでも果敢にやってみましょう。先ずは「テイスティングなさいますか?」の問いに「はい」と答えます。

 やり方は葬式での焼香に比べればかくれんぼのよりも簡単です。まずはテイスティングすると決まった方(主に男性。後述しますが、男女二人組で「テイスティングはわたしが」といって女性がしてしまうというのは、これはもう、どんどんやって下さい。「菊地の客は、女の方がテイスティングするカップルが多い」などという事になったら、こんなに痛快な事はありません)の、テーブル上の右手の当たりにコルクが置かれますので、それの湿っている方の匂いを嗅ぎます(ここでは黙して「うーん」とか唸っていればよろしい)。

 次に、半量ほどグラスに注がれますので、それを2~3周回転させ、グラスを手に持って斜めにし、ぐっと鼻を突っ込んで香りを確認し(というか、鼻から息を吸うだけで良いのです)、無表情に、かつ滑舌はなるべく良く、「はい、いただきます」と言うだけです。ワインで口を濯ぐ必要はありません。言うまでもなく無表情はマストではありません。心象を表情に出しやすい方は、美味しそうな香り!と思ったら、美味しそう!な顔で言いましょう。その段階でスタッフがあなたのテーブルに良性のマーキングをします。 








 <3> 価格とは何か?





 価格も実数値ですので形骸化は基本的に起こりえません(昭和40年当時の5000円と現在の5000円に実質的な貨幣価値差があるように、推移はありますが)。1杯800円という価格は、あなたがどれほどの想像力を持つ、統合失調の患者すれすれの詩人でも、総てを経済性に還元出来る冷徹な現実主義者でも、可処分所得がひと月1万円でも1億円でも、800円のグラスは同じく800円です。

 実のところ、料理店でワインをセレクトするとき、最も我々の頭を悩ませるのは、ワインと何者かのマリアジよりも(ここまでお読み頂ければお解りの通り、この営みはむしろ楽しい物ですーーー場合によって、マリアジが大失敗してしまったとしても尚。と申し上げても蛮行の誹りは受けないであろうほど)、この、価格という怪物との闘いにあります。「このグラスワイン旨い。おかわりおかわりと言って、恋人とあっというまに6杯飲んでしまった。あとあと勘定すると、それだったら最初からボトルで注文した方が遥かに格安」といった、ビギナーにありがちな微笑ましいエピソード1の事を言っているのではありません。「高いと旨いのやっぱり?」という、あの恐ろしい、根源的な問いに関してです。これに対し、瞬時に適正な解答を出せるワイン評論家もスムリエも存在しません(余談ですが、CDの価格は統一的であり、音楽家にはこの問いが発せられないという幸福そして不幸があります)。

 「いやあ、それはあなたの心次第。それで余りに曖昧だというのであれば、少なくとも感情や体調のセッティング次第」とお茶を濁した所で、少なくともワタシの経験では、歓喜と絶望は、同じく酒を旨くしますし、空腹感から食べ過ぎの軽い胃炎まで、酒を旨くし、つまり、何が酒を不味くし、旨くするかという、個人的かつ反射的な法則は無い。と申し上げる事が出来ます。勿論、この遊びの範囲内に於いては、第一にはワタシの自慢のバンド/オルケスタが生演奏している。という前提ですから、酒が不味くなかろう筈は無いので、つまり安全ネットの上での空中ブランコであることは言うまでもありませんが、さりとて価格は価格です。

 ワインは、日本酒やビール、焼酎やウイスキー等と比べて価格帯域が非常に広く、カップルに各々のリストが渡されるが、男性の方にしか金額が書いてない。などという素晴らしくも奇怪な習慣は、高級ワイン文化にしか存在しません。しかしながら、あんなものは、すでに銀座の一角にしか存命しないのではないかと思われます。ブルーノート東京のワインリストは、最高額クラスの別冊(後述)でさえ、「女性用の、価格が伏せられたもの」はありません。

 そして再び、しかしながら、だからこそワタシが、男性とお二人連れの女性のお客様に推奨したいのは、スタッフにワインリストを頼み、それを手渡され、そこから選ぶ。というのを、すべて女性のアナタがリードする。という事です。

 現在のジェンダー転倒傾向社会の中で、すっかり行われているものと勘ぐっていたこのシーンが、実のところ「女子会ワリカン」という勢力に阻まれているのは、微苦笑にまみれて何ともコメントが難しい状況ですが、「女子会4人組(勿論、最近ワタシの客席に多く成って来た<お洒落男子会4人組>でもまったく話は同じですが)で聴きに来て、1人2杯ずつで良いなら、普段滅多に呑まない2万円のボルドー入れても一人5000円で天国が更に倍、上空に上がりますぞ」と申し上げるのも「あなたがスタッフにリスト頼んじゃって、そんで受け取っちゃって、指差しちゃって、彼氏の為に1万超クラスのトスカーナ入れちゃいましょうよ。彼も絶対にウマ死にするガチのおすすめをワタシが選びますから。やっちゃいましょうよ。女っぷり上がりますぞ。でもワタシのサイト読んでる様な男子と来てはいけませんよ(バレるので)」と申し上げるのも、共に楽しき哉。

 しかし三度、しかしながら、やはり価格は価格ですので、そこにセレクトの重責が生じる。という訳です。価格に関してワタシが自らに課した外的な縛りは、前述の通り最高でも2万5000円まで。という初期設定のみです(この算出基準は非常に漠然としており、「1ボトルを4人で呑むとしたとき、一人がライブチャージと同額を払った場合に相当する額」といったもので、何ら社会的な根拠はありません)。と申しますのも「コスパ」とギリシャ語の様な語感で呼ばれる、「値段の割に旨い/不味い」といった考え方は、実のところワタシには完全には理解しきっておらず、ワタシの中では「値段と関係なく旨い/不味い」しかよくわかりません。ですのでその点(コストパフォーマンス)はまったく保証出来ない旨、最初にお断りしなければいけません。どうしても敢えて、コスパに関するコメントを無理にでもするならば「ワタシが旨いと思う物はみんな旨いが、安くて旨い物の旨さの特徴、高くて旨い物の旨さの特徴。といったものは、当然ある」と、何も言っていないに等しいものしか出てきません。


 それでは以下、事項で具体的なセレクト一覧に至りますので、ここでは<メニューのあり方(読み方)>を最終チェックしておきましょう。とはいえこれも至ってシンプル。「グランドメニュー」と「ワインリスト」という2者の違いを知っておけば大丈夫です。





 <4>表記のされかた




 A) シャンパーニュ


 着席と同時に配られるか、或は最初からテーブル上に置いてある、ビールやカクテル等、あらゆる他のドリンク(や、場合によってはフードも)の品揃えが一冊になっているものが「グランドメニュー」です(余談に成りますが、ワタシ幼少期にあれを、最初からテーブルの上においてある場合がある。という理由から「GROUND MENU」だとばかり思っていました。勿論、正しくは「GRAND MENU」です「大きい/包括的な/重要な」ということですね)。悪の華、シャンパーニュですが、ブルーノート東京がグランドのドリンクメニュー(に、数多あるシャンパーニュのラベルからテタンジェ社(詳しくは検索を)のみを選んでいるという事実には、国家的な大喝采、とまでは言わないまでも、ジャズの伝統に則り「イエー!」という心からの拍手を5~10発与えるに充分値するでしょう。

 同社のシャンパンは4~5種類記載されており、うち、グラスがあるのはブリュット・レゼルブ(1700円)のみ、ハーフボトルがあるのが2~3種といった所です。価格はボトルで18000円から2万5000。懐かしや、ワタシがオーチャードホールで、グラスにて皆様にご提供させて頂いた、同社の「ノクターン・セック」もマウントされていますが、当然グラス・サーヴィスはありません(これは怠慢ではなく、ワタシのオーチャードホール公演のバーカウンターが異例過ぎたのです。今や懐かしい思い出ですが、あの時は「こんな高い物出しても売れ残る」というオーチャードのバー側からの至極当然な判断を、ワタシが独断で「いえ、売り切れます」と押し切り、実際に数えきれぬほど、売り切れのクレームがつきました)。

 ここまでが<グランドメニュー>内のシャンパーニュです。そして、頼むと別途持って来てくれる(店によっては、グランドメニューと一緒に、最初から持って来てくれる場合もあります。ブルーノート東京がどちらかは、皆様でご確認ください)、革張りみたいな格好の、重々しいやつがありますが、あれを<ワインリスト>と呼びます(カルト・ドゥ・ヴァン/ラ・リースタ・ディ・ヴィーノ)。

 こちらには、あらゆるメゾンの、多くのドゥミも含め、何と41種がマウントされており、最高価格は8万6000円にまで跳ね上がりますが、内容は大変素晴らしく、例えばワタシが女性客だったら、迷わずボランジェの02年ラ・コート・ドゥ・アンファンを抜いてダブセクステットを聴き、途中で一回失神することを選びますが、これは約3万円ですので、今回のセレクトからは泣く泣く外してあります(勿論、ボランジェ信者の方で「え?!あるの!!」という方は臆せずどんどんどうぞ。ボランジェもクリュッグも00年のドンペリもあります)。

 しつこいようですが、今回は、インチキな有線放送や、お友達が家から持って来たCDを聴きながら呑むのではありません。ダブセクステット(勿論、ペペでも構いませんが)の、完全にレアな生演奏を聴きながらボランジェを呑むのであります。ワタシが最後にボランジェを呑んだときは、「花と水」のトラックダウン時で、スタジオのラージスピーカーの大音量で「ラッシュライフ」を聴きながら南さんと二人であっというまに一本呑んでしまい、失神した記憶があります。失神したのに「記憶がある」というのは大変な矛盾ですが。





  B)赤白薔薇



 赤白薔薇は、シャンパーニュよりも数が多いため、まとめ方が三段階になっています。

 まず、グランドメニューですが、ワイン用に独立しています(シャンパーニュはカクテルやビールなど、他の酒と同じブックにあり)。独立していますが、これは「グランドメニューの、ワインの部」であり、前述の「ワインリスト」ではありませんのでご注意を。

 と、そこ(グランドメニュー)には第一に「ハウスワイン(前述の通り、グラス/デキャンタ/ボトルでサーヴィス可能。)が4~5種列記されています。グラスで850円から1200円、ボトルで3500円から6000円までと、シャンパーニュに比べるとぐっと現実味が増し、そこがかえって煩雑に成ってしまう所なのですが、先に進みます。

 同じくワインのグランドメニューには、次に、スムリエ推薦の、新世界(フランス、イタリア、ドイツ以外の国々、日本、スペイン、アメリカ、アルゼンチン、チリ等々)産のボトルワインが5~6種列記されています。これらは総てグラスとデキャンタのサーヴィスが行われない「ボトルのみ」で、3500円から9000円まですが、グランドメニューに於ける赤白薔薇には、総て軽さ/重さの表示が、三つの丸で示されています。カレー屋の辛さ表示が5つの唐辛子で示されますが、あれと同じで、塗りつぶされている丸が多ければ多いほど重い(=渋い=濃い)という事で、これは一目瞭然です。

 ワタシの推測では、ほとんどのブルーノート東京のお客様は、ここまでで事足れリとしている筈です。これはDISりでは全くなく、第一にはこの段階でも非常に優秀なワインが多数マウントされておりますし、そして第二には、ワインリストが、ある意味で豊富すぎる。という事があります。

 ワインリストでは数が爆発的に増え、フランス全地域の白と薔薇だけで約100、ボルドーの赤だけで約100、ブルゴーニュの赤だけで約100、イタリアを含めたその他の国が赤白薔薇合わせて約70と、とてもその場では読み切れません。ワインセレクトがその夜の最も重要な儀式であり、慎重に5分も10分もかけられるレストランであればともかく、ここは、営業登記上こそレストランですが、世界に冠たるジャズクラブであり、すでに目の前には楽器がセッティングされているのです。

 それではお待たせ致しました。以下、具体的な銘柄を上げて参りますので、いきなり口頭でご注文されるもよし、ワインリストを受け取ってから指差すも良し、勿論、ワインマニア諸氏は、ワインリストを受け取ってから、ワタシのセレクト外に、お好きな銘柄を見つけてご注文されるのもまた良し。であります。





 <5> 菊地成孔の、ブルーノートのお勧めワインセレクト




   ロゼ


<推奨1本。しかし抜群>

 こういったものはシンプルであればあるほど良いので、四の五の言わず(言うのですが・笑)、どんどん選んでしまいますが、先ずは数の少ないロゼから行きます。ビギナーの方は赤か白にして頂き、ロゼはマニアの方で、しかも、「おまえせっかくのゴールデンウィークに花見ロゼ飲まないでどうすんだよ。うっはっはー」という、大変な粋人の方だけにしてくださるよう、何せ推奨は1本しかありません。1本しかありませんが、大当たりです。


07 Marsannay Domaine Clair-Dau Louis Jadot/マルサネ・ドメーヌ・クレールーダユ・ルイ・ジャド07年


 マルサネの07年、しかもブルゴーニュの四番打者ルイ・ジャドさんちが作っております。「ロゼは嫌いだったけれども、サンセールやマルサネのロゼ飲んでから目が覚めた」という人が世界中に万単位でいる(ワタシもその一人です。サンセールのロゼを、パリの「レ・スプラナール」で、ベトナム風の鶏の甘辛い串焼きで飲んだ時の衝撃!!)なか、マルサネ・バイ・ルイジャドがご奉仕価格の6000円ちょっと。フードはありますよ何か。甘辛そうな味付けの肉類が。ワイン系のソースではなく、素焼きかエスニックテイストを加えた物とばっちりマリアジします。

 ただ、これが「花と水」だったら、一も二もなくお勧めするのですが、ダブセクステットとペペは、絵に描いた様な「春のうららかな狂気」みたいな事をあんまりしませんので、そもそもロゼとのマリアジがどうかな~。ダブセクステットももうキャリア中堅になってきて、ルイ家君が初々しいとかいう感じも薄らいだし。。。といった感じです。こちらグランドメニューにはありません。リストの中にあります。


 

  赤




<1万円付近で、軽快で高級感のあるフランス産の、しかもかなりのお値打ち>




 赤はどうかペペ・トルメント・アスカラールに合わせて下さい。何せあんな風な音楽ですから、スペインや、それこさチリだアルゼンチンだの安くて旨いメルローを。なんてえ事をつい言ってしまいそうですが、ワイン思想そして音楽思想に於いて、それは昔の、言ってしまえば20世紀的な、もっと言ってしまえば3/11以前な思想だと言えるでしょう。

 勿論ワタシは、高ければ偉いとか旨いとか言っているのではありません。21世紀を迎え、3/11を迎えてしまった我々に必要なのは、古典から前衛を繋ぐラインを引き直す事に他なりません。「つながろう日本」という、テレビジョン内でのスローガンが、新幹線の事を暗示していたというのは、微笑ましいお笑いぐさですが、過去と分断されず、新しく、過去と現在を繋ぐ線引きをするのは、21世紀人である我々の努めといえるでしょう。セレクトはボルドー、ブルゴーニュ、イタリア北&南部のみと、ガチガチに限定されています。

 先ずは、「余り量は飲めないから、ドゥミで良い。グラス一杯強で官能的な状態に成れればそれで良い。その代わり、その一杯は確実にガツンとエレガントにやって欲しい。フルボトルは飲みきれないが、ワインの味わいはたまらない」という、慎ましやかな様な、貪欲な様な方々。いらっしゃいますよね?あなたのような方へのセレクトです。

 そういった方々には、間違いなく


 05 CH. DU TERTRE MARGAUX 05/シャートー・テルトル・マルゴー05年(ドゥミ)
 
 です。

 これはドゥミで約8000円です。カップルで多めの2杯ずつでお一人4000円。とこれ、第一にはブルーノート東京のワインカーヴにあるドゥミの中で、単純に最も、所謂お値打ち(そもそもテルトル・マルゴー自体が、ボルドー全域の中でもお値打ちのニューカマー)である訳で、コスパという概念が今ひとつ解らないワタシでもこれは解ります。つまり、たくさん必要でない人は、少量に高額をつぎ込める。という事ですが。

 ですから、05年は大変な当たり年だとか、女性的でシルキーかつ、染み渡る華やかなそして物悲しいカシスの味わい。とか、とはいえ意外と当たりがガッツりしていて、儀式的な気分に。とか、05のマルゴーはまだ若いかもしれない。といったワイン通向けの能書きよりも「ざっくりざっくり言うと所謂<ボルドーの5大シャトー>というハイブランドのセカンドラインみたいなもの。ランバンじゃなくてランバンオウブリュ、クロエじゃなくてシーバイクロエみたいな、しかもこっちのが可愛くて断然お得。といった意味合いです」というのが、ひょっとしたら解りやすいかもしれません。ペペの音楽をやや少女性で捉えていて、ちょっと背伸びな感じで、甘いお酒じゃなく、ブルーノートで5大シャトーかすり(そうとうなかすりっぷりですが)デビューする。というのは、これがなかなか良い絵だと思われます。因に05年は、ペペの誕生年でもあり、「南米のエリザベステーラー」のリリース年であり、ある地域の当たり年であります。ワインリスト内にあります。




 「フルボトルで1万ぐらいで、あんまり渋くて重いんじゃなく、滑らかでエレガントで、適度に凝縮感があって、少女性よりも30代中盤ぐらいの、青年の感じが残る男感が欲しいね。枯れ草とかタイムとか、スパイシーさもあって、何せ1時間以上ずっと飲むんだからね。凝縮された高級感の中に、ちょっとした爽やかさが無いとね」といった方には間違いなく
 

 05 Cotes du Rhone Coudoulet de BeauCastel /コート・デュ・ローヌ・クードレ・ドゥ・ボーカステル05年


 をお勧めします。これ約1万円です。これもシャトー・ドゥ・ボーカステルのセコンドですし、同じ05年ですが、ブルゴーニュ的としか言いようのない、古典的なエキゾチズムといいますか、あんまり重くない中に、様々な意匠が畳み込まれている感じで、ペペにばっちりだと思いますね。こちらもワインリストの方にあります。こちらも05年ですね(他意はありません。偶然です)。





<4~6000円で、エグイ感を愛する濃厚派のための南イタリア>

 
 エグイ派、エロい派の方いらっしゃいますよね。ペペを、ものすごく狂おしくて煮えたぎる様な情念と妄想の内に捉えている様な、そして自分が赤ワインに求める物は、果実感だとか爽やかさだとか完成度なんかじゃない、悪臭にまで近いワイルドな土臭さ、生臭さ、インクみたいな感じ(イタリア語で「ベンズィーナ」つまり、ベンジンの事ですが)、葡萄の果実に、茎や枝まで入っている様な、濃くて強い感じ。を求める濃厚なあなたには、アリアニコが二種類あります。

 アリアニコは南イタリアの土着の古代品種ですが、これ何せワタシも大好きで、オーチャードホールで最初にお出しした「マストロベラルディーノ・タウラージ・ラディーチ」もアリアニコを使った逸品でした。

 グランドメニューの「スムリエのおすすめ」に、バジリカータのタウラージ08年が4200円で記載されていますが、こちらは4200円で、手軽にアリアにコの魅力にありつけるので、こちらでも充分ですが、ワインリストの中にある


 08AGLIANICO VINOSIA /CAMPANIA/アリアニコ・ヴィノジア・カンパーニャ


 が、6000円ちょい欠けでエグく欲深く、罪深いあなたを待っています。勿論、ただ濃いだけの醤油みたいなトラウマ安ワインではありません。08とちょっと若なれど、若くてエグい。というのが、とても良い事であるのはご了解頂けるでしょうし、しかもナポリのある、あのカンパーニャです。日本で言うと、福岡とか山口とかでしょうか。旨いもんの中心地ですよね。バジリカータも良いです。渋い。でもカンパーニャの隣ですから、これはどうしてもメインゾーンをかすっているという意味合いが加味されます。カンパーニャのアリア二コ、これはもう端的にエロですね。






 <1~3万円代という激戦区から選ばれた、サンテミリオンのエリートとトスカーナ>




 何せリストはさっき書いた本数ですから、上限設定無く上を見たらパーカーポイント90点代のペトリュス97があり、ムートン97があり、メドックけっこうあるわけで、こうした物の大半は「音楽とも料理とも関係なく、無条件に素晴らしい」と言っても過言ではなかろうかと思われます。ラ・ターシュ、エシェゾー、シャトー・デュケーム、ロマネ・コンティ呑むと、ワタシは自分が誰だか、いつ何をしている、どの星にいる何と言う生物か、まったくどうでも良く成ります。昇天ですね。音楽か酒、もしくは音楽と酒でしか起こりえない性質の物です。

 とさて、しかしこうして、どんな店にもある、額縁に収まって飾ってある様な高額ワインを、最初から額縁からバンバン引っこ抜いて手渡すのはそもそも一般論として無粋ですし、そういった物にはそもそも解説は必要ありませんので(バッハやチャーリーパーカーやザ・ビートルズにそもそもの解説が必要でないように)、ワタシが生まれ変わってホステスさんか何かになったとしたら、意味解らないままブルーノートに来ちゃった社長さんみたいな方に入れさせて、自分ばっかり呑んでしまう事にしまして(これは書いてしまって良いと思いますがーーーまったく高くないのでーームートン97は15万です。もしマイルスが生き返ってギルエヴァンスオーケストラと来日したらワタシ必ずこれを入れ、一人で全部飲みます)、1万~3万円(もっともリストが豊かな、戦国絵巻の価格帯)という激戦区から、これはもう、身を削る思いで3本だけ選びました。



 2本はサンテミリオンです。



98 Ch.Couspaude/シャトー・クースポード98年
因にパーカーポイント90

94 Ch.Canon la Gaffeliere/シャトー・カノン・ラ・ガフリェール
因にパーカーポイントこちらも90






 そしてもう1本はトスカーナであります。


97 Burunello Di Montalcino La Casa Caparzo
/ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・ラ・カーサ・カーサ・カパルッツォ97年

 この3本、いずれも約2万。ブルーノート東京のトスカーナは7本ですが、中でもコレが圧倒的でしょう。人気の04年もあり、ややお高いですが、ワタシは97年の飲み頃感を推します。04年のブルネッロを高騰化せしめるオタク感は、ワタシにとって、断じて認めないとは言わないまでも、あまり参考に出来ない指向であると判断します。


 ワイン愛者とは、そも狂おしき者達であり、ピノがない、メルローがない、そもそも決定的なブルゴーニュの赤がない。と、半ばキレかかっている方もいらっしゃるかも知れません。勿論m、ブルーノート東京にはこれら総てが豊富にマウントされています。エマニュエル・ルジェもいますし、完璧なラフィット・ロートシルトもいます。特に赤に関しては、星付きレストランと言っても遜色の無い布陣を整えています。


 しかしワタシの、あくまで今回のセレクトは、迷い無く頑としてこうなります。何故トスカーナとサンテミリオンなのか、能書きは敢えて総てカットします。ビギナーの否様には呑んで頂ければお解りに成り、マニアの皆様には、能書き垂れるまでもなく、どこのフォーカスを当てているか、直ちに首肯頂けると信ずるものであります。ペペトルメント・アスカラールの音楽がああした禍々しくも妖艶な姿でなければ、ただひたすら純粋にタンゴもしくはジャズだけを演奏するシンプルなオルケスタだったなら、ワタシは遠慮なくポムロルを、5大シャトーを推していたでしょう。






   白&シャンパーニュ





<事を荒立てるシャンパーニュ>



 ダブセクステットを聴く時、例えば、非常に大雑把に、事を荒立てて聴きたい方と、しなだれかかり、甘えて聴きたい方に別れるのではないかと思われます。「そんなもんどっちもアリでお願いしますよ!」というお声はごもっとも。愛撫と暴力は、常に紙一重で決して越えず、マッサージとセックスは、常に紙一重で決して越えず、一線を越えてしまうのはジャズの流儀ではありません。しかし、そこにワインのマリアジを考えた時、一杯目はシャンパーニュで、後は白のブテイユを入れて。という料理の世界では起こりうるセリーがなかなかスムースには移植できないのが厳しく、そして不条理な現実であります。

 事を荒立てたい方、はしたなくなりたい方、場合によっては、イライラを時に派手に、時にダーク&クールに発散したい方もいらっしゃるでしょう。そういったヴァリアントな方は、どうか我々とシャンパーニュでおつきあい下さい。要するにまあ、ホストクラブですけれども。ああいう場所の構造という物は堅牢でして、何故シャンパーニュをタワーリングするのか?値段が高いだけならば5大シャトーで良い訳です。泡立ってアガるというだけならば、サイダーに覚醒剤でも入れれば良い。決してそうは成りません。シャンパーニュには正にバルトの言う、神話作用が構造化されている訳です。

 グランドメニューにあるテタンジェを一杯また一杯。というのも決して悪くはありませんが(何せ「シャンパンだけ」というアナーキズムには、いかなるルールも美学もありえません。それは純粋に「今夜はシャンパンだけ呑むのだ」という野蛮なまでの行為の結晶そして遂行であるのみです)、赤と同じく、2~3万で価格をスパッと切り、イケそうな物を選ぶ。という行為に及ぶ時、ワタシの苦悩は、赤を選ぶそれの10分の1以下に低下し、実に景気良くバンバン開けそうになるのですが、ここは落ち着いて男女性を問わず、歌舞伎の荒事の様な派手なドラムソロや、近代フットボールのフォーメンションチェンジにも似た、プリミティブなセクシーさにマリアジする。アゲつつドスの効いた2本を選ばせて頂きました。いずれもワインリストから。




 99 Bruno Paillard Assemblage Brut
/ブルーノ・パイヤール・アッサンブラージュ・ブリュット99年
 

 2万円ちょい出。シャンパーニュとあらば、ブルーノート東京でさえもノンヴィンテージが数多くマウントされるのは致し方無し、しかし、敢えてヴィンテージ物からはこちら。味は厚めで、塩や脂の多い、派手な飲み食いとバッチリですし、何よりも酔い心地のアゲ感には、80年代からの創業という若さが大いに一役買っています。テタンジェ社中心のワインリストから、特に前述の、オーチャードでお出ししたテタンジェ・ノクターン・セックさえをも抑えての選出であります。泡ものを愛する女子の皆様は是非お試し頂きたく思います。






 Tattinger Prestige Rosé Brut Reserve
/テタンジェ・プレステージュ・ロゼ・ブリュット・レゼルヴ

 2万円ちょいかけ。この場合「ピンク」と言いたい所ですが、ロゼからも選ばなければ成りません。ピンクのシャンパーニュ(ホストクラブでは、早くも80年代後半から「ピンドン」即ち「ピンクのドンペルニョン」が、小悪魔agehaを先駆けて、その世界観を初期設定しました)こそが、我々ダブセクステットと共闘し、3/11以降の世界を暴れまくる、モーダルな野蛮さを象徴する女性の飲み物と言えるでしょう。因にこちらドゥミもありますので、乾杯や一人呑みも可能です。シャンパンのドゥミは、ステージ上から見たとき、ちょっとカッコ良いです。






<しゃんとしたふりでしなだれかかる白(同じキャラを、価格帯別に)>



 一方、白で涼しく、しゃんとしながら、しかし、気がついた頃にはしっかりしなだれかかろうという、高貴な御婦人の邪さは、演奏する我々の内にさえ遍在する、強い、従って正しい邪さだと言えるでしょう。価格帯別に3本。極めて大雑把に、白ワインはドライかデュースかに別れますが、今回、ドライ派は避けています。ドライな白ワインというのは、私感ですと音楽だとドイツの3B(バッハ、バートーベン、ブラームス)か、都々逸やさのさ等の日本の小唄の類にはぴったり来ますが、モードジャズ、しかもシックかつハードコアな系列の物にはあまり気持ちよくマリアジしません。ワタシは、ドライな白。というものは、そもそもスーツルックにマリアジしないと考えています。そこで



08Bourgogne Blanc Couvent Des Jacobins Louis Jadot
ブルゴーニュ ブラン(カタカナ記載はグランドメニューに従っています)


 グランドメニューより。グラスでもいけますが、ボトルで5600円ですので、ルイ・ジャドで安心してコスパ高く行こう。という現実派には最適かも知れません。



 1万円付近は


08 Meursault Vieilles Vignes Vincent Girardin
/ムルソー・ヴィイユ・ヴィーニュ・ヴァンサン・ジラルダン 08年

 で決まりですね。1万5000ちょい欠け。何か白は作り手中心主義のように成っていますが、ジラルダンのリッチな完璧主義によるシャルドネの魔術は、「スーザン・ソンタグ」等の、目まぐるしく速度の変わる硬質で軟体的な4ビートグルーヴと相まって「白ってこんなに濃密でヤバかったのか」という思いを新たにする事間違い無し。ミネラルの清涼感の中に、蜜、バター、果実のコンポートという二段構え、是非冷やさずに室温でどうぞ。




 2万円付近は

01 Chassagne Montrachet “Morgeots" Michel Colin Deleger /シャサーニュ・モンラッシェ・モルジェ・ミシェル・コラン・ドルジェ01年




 2万円ちょい欠け。で、キャラ的には上記ムルソーと被る嫌いがあるのですが(シャルドネの、カツンと来ながら中がねっとりした白。という)、今更ながら完全にこれ、ワタシの個人的趣味でして(とはいえワタシも、鰻を食うときは、80年代の、ライン川の水っぽいゲヴェとかも呑みますが)、とはいえ、元々この話、ワタシの個人的な趣味の集積であるワタシの音楽とのマリアジですから致し方無し。5000円ほどの価格差は、ワインをあくまで音楽の伴奏と考えて、スイッチとセッティングだけ貰って音楽にのめり込むか、それよりは僅かにワイン自体に没入しつつ聴くか、の違いだと思って下さい。

 リストには勿論、ゲヴェやシャブリの逸品も並んでおり、オマエが何と言おうとオレはドライなんだ。オレは家で常に、ドライをやりながらジャズを聴いているのだ。といった方の存在は想像に難くありませんが、そうした方々も、赤やロゼ同様、試しに合わせてみて下さい。ワタシの快楽に関する真意がお解り頂けるのではないかと思います。






 以上これは、音楽とワインとのマリアジの提案でしかありません。ワインはマリアジの契機となりうる。これはつまり、ワインに人格もしくは霊格に似た物が宿っている事の証左ではないかと思われますが、正しい所は解りません。しかしいずれにせよ、物と物が並ぶ。つまりセリーには無限の力があります。やがては総てが並ぶでしょう。ワタシはこの事を、第一には音楽から、第二には食事と飲酒の経験から学びました。このちょっとした遊びが、世界をほんの少し、あるいは何億倍も豊かにしますように。それでは、こどもの日とその翌日に。ごきげんよう。


 







菊地成孔の1行(厳密には数行)情報



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ブルーノート東京への招待

May-05-2011




 明日のファーストセット(祝日仕様で、夕方の4時開演。まあ、終わってから、休日の夜をゆっくり過ごして下さい。といったコンセプトなのでしょう)は当日ブラっといらしても確実にシートがございます。それ以外のセットも、残席ありますが、当日フラっと狙いの方は、家を出る前、念のためブルーノート東京に後一報下さい。

 バンドのコンディションはどちらも最高。ダブセクステットは久々のメンバー全員参加の演奏で血がたぎっておりますし、ペペトルメントアスカラールは、最初に召還させていただいたカヒミさんと、最も新しく召還させていただいております林さんが揃うという、有事にしかあり得ない、ただならぬ豪華さです。

 久しぶりで歌った「ルックオブラヴ」の全身が熟れ溶けて行く様なあの感覚、久しぶりで演奏した「プロセッション」の、全身が花開いて燃え上がる様な感覚。久しぶりでセッションした「スーザンソンタグ」の、本身の斬り合い。セレクトワインの一覧は前頁にあります。それでは明日。そして明後日。美が総てを祓い、美が総てを清め、美が総てを再生させますよう。



ブルーノート東京初日終了

May-06-2011

 

 

 


ブルーノート東京の粋な計らいで、ワタシがセレクトさせて頂いた、テタンジェが終演後に二本もバンドに振る舞われまして、とはいえメンバーの多くがマイカー移動でして、マイカーでない類家くんもビールでしたので、ワタシと関係者の女性の二人でテタンジェ2本あけてしまいまして、有言実行、水も他のリカーも一滴も口にしておりませんで、そうですなあ、気分としては遠泳ですね。遠泳で空中を悠々と泳ぎ、青山から新宿まで戻りまして、空中を悠々と漂いながらこれを書いております。ワタシはカモメ、と申し上げても、お若い方には解らぬ都々逸でしょう。

ジャズとは思えぬほどの早くからの開演にも関わらず、ファーストもセカンドも満員御礼。ブルーノート東京共々、心から感謝致します。セレクトワインは、正直どれぐらい出るのかな~うはは~。といった、ゾクゾクする感覚を、美しく優秀な、ブルーノート東京のスムリエーヌ女史と共有しておりましたが、蓋を開けたらこれが予想以上に動いておりまして、これまた本当に嬉しいです。一晩でルイジャドのブルゴーニュブランがあんな本数動くジャズクラブは、銀河系に今夜のブルーノート東京以外にありえないと思われます。開演早々にブルーノ・パイヤールも出ました。まあ何と申しましょうか、遊び戯れの類いとはいえ、これほど、音楽以外の、音楽に付帯したシーンで高揚したのも久しぶりです。ご注文された方が本当に羨ましい。ワタシもブルーノ・パイヤールをやりながらダブセクステットが聴きたいのですが、こればかりは一生果たせません。

 何度も繰り返しておりますが、ワタシからのメッセージは、一つ残らずすべて、音楽そのものに託してあり、それはステージのたび、過不足無く、丁度良い感じで皆様に伝わったと、ワタシをの無意識が申しております。

 しかしもし、ひとつだけ言葉で添える事があるとすれば、それは本当に余計な事なのですが、敢えて添えるとするならば。です。皆さん。どうか、良い男と音楽を信じて下さい。ポリリズムもある、ポリモードもある、エレクトロニクスとジャズの融合、ワインと音楽のマリアージュ、苛烈な社会状況。

 だがしかし、それらを総て越えた所に、ワタシがダブセクステットという組織を運営する根拠があります。それは、良い男とジャズというものを、毎日ずっと信じている。という事なのです。言うまでもありませんが、ワタシが良い男とだとか、そういう意味ではまったくないですよ。

 ああ、良い男だなあ。ジャズは良いなあ。と、心から信じている瞬間、この時間がなかったら、ワタシの命などとうについえていたでしょう。ワタシはその素晴らしい信仰の時間を、皆様にもお分けしたい。嫌だという方にまで無理強いはしません。しかし、もしあなたが望むならば、年齢も性別も国境も何もかも越えて、総ての方にお分けしたいのです。

 明日は、良い女が数多くステージに上ります。良い女も信じましょう。信じるというのは、約束の事ではない。感情の事でもない。信じるという事は、痙攣的な不合理であり、身体の中心に灯る、愛そのものの、基本的な動きなのです。些かシャンパンが過ぎました。それは明晩。






 <キャプション>


 「バクバク喰ってる姿フェチ」の皆様用にベストショットを狙っているのだが、いつもミッシングしている。何故か。一番バクバク喰っているときは、自分もバクバク喰っているからである。しかし、部活の合宿のようにしてバンド全員が喰らいまくっている図は、常に爽快かつフェティッシュであり、常にネクストを狙う所存である。

 
 パーティー等でよく見る光景だと思われるが、シャンパングラスがずらっと30個ほどならんだ。これを23個ぐらい飲んでしまった結果、こういう感じに(これまだ見れるほう。一緒に撮った写真は、端的に言って面白過ぎ、ウケすぎでライブの余韻が消えぬ様、自粛するしかかなった。

 

 

ブルーノート2日目終了

May-07-2011

 

 

 




 ただいま打ち上げから戻りまして、昨日どころではない。シャンパンからスタートし、我ながらとんでもない事になりまして、まともにキーパンチ出来る自信が無く、とりあえず御礼のご挨拶のみ。2日間、ブルーノート東京も驚くほどの満員御礼、そしてワタシのちょっとした遊びに乗って下さった皆様総てに、バンドのメンバー並びにスタッフ全員を代表して感謝致します。ルイジャドとテルトルマルゴーとテタンジェからは感謝状が届くでしょう。古代種であるアリアニコからは信託が届くでしょう。ブルーノートのスムリエーヌ並びにバーテンダーサイドとはシェイクハンドの関係を結ばせて頂きましたので、今後公演の回数を重ねるごとにお楽しみを増やして行こうと思います。マスメディアはもう忘れようと躍起ですが、この国がくらったボディブローはまだまだ効いています。総てとは言わない。自我の一角に流れる、何らかの、どこかの時間は、まだ止まったまま。止まったまま我々は、日々の音楽を聴いて暮らしています。しかしワタシは、この日に向けて備えていたのではない。人生のある角度から姿は、シンプルに艱難辛苦の連続であり、極言すれば、音楽が平時に鳴らされる事は無いと、ワタシは信じています。建築と絵画と、複雑系を含めた自然物理と哲学と宗教、そして酒場のはすっぱな娯楽が同時に進んで行く、これがジャズの特権であり、ワタシが乗った方舟の乗車証明なのです。次はホットハウスそしてDCPRGと続きます。またの逢瀬まで、ごきげんよう。

 

 

 

 

45曲そして当サイト終了

May-09-2011

 

 

 


数多くの感想メールを頂戴し、嬉しい限りです。中からワイン愛好者の方からの一通のみご紹介させて頂きます。

 

菊地さん、こんばんは。菊地さん推奨のロゼ、春らしくて素敵でした。頼んだのは私たちだけだとブルーノートの女性に聞きましたが、私たちは埼玉航空公園にも選びに選んだボトルを持参する好き者なので、大満足です。演奏もとても素敵でした。今日は二丁目で良いイベントもあり、それも捨てがたかったのですが、まさか向こうで大盛りあがりのpoker faceまで聞くことができるとは!今日はまだまだ飲みますが、飲まれないうちにお礼を申し上げておきます。心から、ありがとうございました。



こちらこそありがとうございました。マルサネは結局、二日間で3本注文がありまして、音楽のエッジなメッセージに合わせる事よりも、春先のロゼをお愉しみになる通人の方が3名いらしたという事に、半ば誇りにも近い感慨を抱いております。ルイ・ジャドは白からも選出しており、こちらは15本以上出ましたので、さながらちょっとしたルイ・ジャド・フェアの如き様相になりましたが。ガガの曲は、あの日にやったスムースR&Bアレンジではなく、ヨーロッパ芸術というか、端的にECM風のアレンジで、類家君のアルバムに収録されますので、そちらもご期待ください。因に、ガガを選んだヒントは、テレビ番組「グリー」からです(笑)。





CSの番組で、今までの人生で最も重要な45曲を挙げて解説する。というのがあり、出演する事になりまして、しかし、貧困とはいえワタシの全音楽体験から45曲というのは悩ましく。というより無理。なので、勝手に方針を変え、「日本の歌謡曲のみ」という括りにしたら、1時間ほどで45曲埋まってしまいまして、しかも45曲中30曲ぐらいは、日本人の歌謡曲愛好家だったら知らぬ者はいないという、有名曲ばかりで、まるで50がらみのサラリーマンのカラオケレパートリーもしくはテレビの深夜通販で売っている80年代ボックス10枚組1万円。みたいになり(もっと他にもありますが・笑)、番組のコンセプト並びにスタッフの年齢から用意に想像がつく「90年代渋谷系ノリ」の神経を逆立てる様な内容になってしまいそうですが(とにかく「こんなの知ってる?系のレア盤」がほとんどないので)、ブランデーの7up割りをやりながらまとめて聴くと、ノスタルジーで発狂しそうに成ってしまう危険なラインナップです。

 中でも、現在のワタシの体調、心調とのマリアジがよほど良かったか、イントロが流れた瞬間に「うわあああああああ!」と頭を抱えながら笑い泣いてしまた曲がありまして、とにかくハートを鷲掴みにする握力が圧倒的でした。

 それは何かと申せば、何とこれが何方にもおなじみ山下達郎氏の「甘く危険な香り」です。あんなシーウインディーかつデカダンなテンポ感は、ポップスの神域にいないと出てこない物です。ワタシのラジオ番組はよく、畏れ多くも山下達郎氏のそれとの近似を指摘されるのですが(選曲とかではなく、パースナリティの喋り口調など。でも山下氏もアルバートアイラー流しますからね。選曲傾向も同じかも・笑)、あのとんでもない、古代宗教の歌唱の神が宿った様な凄まじい歌唱力にはひれ伏すしかありません。あんな風に歌が歌えたら、ワタシは今頃精神病院の中にいたでしょう。

 ずっとこの45曲を聴きながら書いております。音楽のノスタルジーという病に関して、ワタシはさほど重症ではないと自認していたのですが、こうして45も集めるに、全面降伏以外になす術無く、かれこれ数時間、胸が痛いままで、あまりにずっと痛いままので、いっそのことブランデーをテキーラ&パイナップルジュースに変えて、幸福の極点的な慟哭と共に寝てしまおうかと思うほどです。楽曲がキャロルの最初のシングル「ルイジアンナ」に変わりました。短い番組ですが、ロケは「青葉」ですし、マニアの方々はお楽しみにして下さい。

 「粋な夜電波」は大変な好評を頂いておりまして、次回はパーカーの地下録音を皮切りに、またしてもヤバすぎる4曲をお届けしようと思っておりますのでお楽しみに。そして何より、「HOT HOUSE」がいよいよ再開しますので、当欄しばらく「HOT HOUSE」のキャンペーン期間に入りたいと思います。

 と、言いながら、その口でいきなりですが、2006年、アルバムでいうと「キュアジャズ」から開始し、5年以上にわたってご愛顧頂いた当サイト「ペリス」ですが、このGWをもちまして閉鎖し、新サイトに移ります(「ペリス」の全テキスト、全写真は、新サイトにすっかりそのままマウントされますので、ダウンロード&保存の御必要はありません。はじまったら解りますが、むしろ今よりも見やすく、奇麗に成ります)。近日中に詳細を発表致しますのでお待ちください。それではごきげんよう。





<キャプション>

プレゴプレゴにて。石黒店長が炭火焼でなく、天火で焼き色を付ける真鯛のグリル絶品。塩の塩梅そしてコントルノのパタータのワイルドな焼き目のありかたが都下最高と言われる鴨のコンフィ絶品。最近ナンバーツー狙いで猛進して来た下山君によるチョコラータのトルタとフランジェリコのロック。



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現在、菊地成孔が着用している帽子の90%はAYAKO OKUNOで発注した一点ものです。デザイナーの奥野さんは関西在住ですが、全国どこからでも受注されていますので、菊地のアレに似た感じの(或は、まったく同じものを)ものを、といった注文から、あなた独自のオリジナルな発注までオーケーです。


 

「HOT HOUSE」は復興します!!(5/13青山CAY)

May-11-2011



聴こえるかー!!チェックワントゥー!!
聴こえるかーー!!フラッテッド・フィーフツ!!!
叫べるかーーーー!!トゥーファーイヴ!!トゥーファーイヴ!!!


オマエラが折れかかってる静寂を縫ってMC KIKUCHIが再登場だ!!

3/11の翌日でありチャーリー・パーカーの命日でもあった2011/3/12に開催が予定されており、開催されていたら伝説(震災もパーカーも関係なく、MC YOSHIO*Oのラッパー・デビューという意味でな!!)のパーティーとなっていたであろう、菊地成孔プレゼンツ「HOT HOUSE」が、全国のあらゆる復興に先駆けてハイスピードな4ビートで復興する!!チェックワントゥー!!フラッテッドフィーフツ!トゥーファーイヴ!!トゥーファーイヴ!場所も時間もおんなじ「青山 CAY」でドアオープンは7時半からだ!


http://www.spiral.co.jp/e_schedule/2011/05/livenaruyoshi-kikuchi-presents-1.html


「え?HOT HOUSEってナニ?」というフレッシュなビギナーも、「いやあ早いなあもうやるノカ」というお馴染みのマニアも、以下のコンテンツを、今一度、もう一度、改めてリローディングしやがれ!!そして今以上、これ以上愛されるのは(以下略。「ワインレッドの心」より)

とはいえコレにはリスクがある。一種の冒険だ。折れちまってるヤツはやらないように。3/12の前夜、つまり3/11の深夜に記憶を飛ばし、時空間ごとクイックバックすることは、現状の日本人の自我の平均から言うと、若干のTPSDを引き起こす危険がありまーーすユーノウ?

何せ、帝都民はもうビーバップで踊る気が無くなってしまったか、現在、前売りが50枚しか売れてないぞダハハハハハ!!!!!(笑)フロアは踊り放題だいまんところ!!!(笑)

「ざけんなそんなもんダンスと音楽で吹っ飛ばしてやる」or「冗談じゃないよビーバップとダンスのパーティーがあるなら3/11どころか、アウシュビッツにまで戻っても楽勝だね」とのたまう、血に飢えた、グルーヴィーでとびっきりお洒落なジャズ狂いとダンス狂いだけが飛ぶように!!解ったな!!

13日の金曜日に行われ、オリジナル/オールドスクーラーのビーバップとダンスが交錯する「HOT HOUSE」は、ワインつきのブルーノート東京とは随分と勝手が違うぜ。荒ぶる、ヴァイオレントなエレガンス!!何せ我らがMC YOSHIO/Oがフロアに降臨する記念日だ!!そんな恐ろしい事を企てたおかげで地震が起こったという説もあるほどだ!!

ココを全部読み、コイツラを全部観て備えよ。一人一人の復興のチャンスがそこにある。もういっかい10日の夜中からやり直すんだ!!リベンジしなきゃ意味ないね!!チェックワントゥー!!フラッテッドフィーフィツ!!トゥーファーイブ!トゥーファーイブ!!!




<HOT HOUSEテストラン成功から本開催決定、そして延期までの軌跡>

 
*「HOT HOUSE」の全容
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=110227205509


*「HOT HOUSE」のPV一覧(you-tube)。MC KIKUCHIとMC YOSHIO*Oの衝撃のデビューから、リンディホップ教室、ソロダンサーのイギジビジョン、イベント案内まで完全網羅!!

http://www.youtube.com/watch?v=lXtlhuIdV8c
http://www.youtube.com/watch?v=FuppPW4fJv8
http://www.youtube.com/watch?v=BHqBoSrsVR0
http://www.youtube.com/watch?v=kyEd3JrIZnA
http://www.youtube.com/watch?v=OwdzDr56wPo
http://www.youtube.com/watch?v=gIQw34n_Tss
http://www.youtube.com/watch?v=Q548LvVYu80


*MC KIKUCHIによる煽り(地震発生の約10時間前)
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=110311015816

*MC KIKUCHIによる震災を受けてのパーティー決行宣言と部屋の倒壊写真(地震発生の約15時間後)
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=110312042629

*菊地成孔マネージャーによる「HOT HOUSE」中止の案内
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=110312135142

*菊地成孔による「HOT HOUSE」中止の弁
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=110312180930



ここまで読み終わったらまた戻って来い!!リベンジは13日の金曜日!!瀬川最高顧問だけじゃなく、何と元祖MCであり、コルトレーンの日本実況盤では「今からジョン・コルトレーンの祝祭の儀式が始まります!!」という名台詞が残し、「山下洋輔トリオ生誕40周年記念」の野音では、MC KIKUCHIとともに2MCでダブルレインボーをがっちりキャッチしたMC I’M KLACKこと、相倉久人先生もフロアに降臨が緊急決定だ!!それではタフで狂った洒落達よフロアで会おう!!チェックワントゥー!!フラテッドフィーフツ!!!トゥーファーイヴ!!トゥーファーイヴ!!!




<追記>


 スケジュールの移動に伴い、PVで公表された「リアルバッパーズ東京」のメンバーが一部変更になった。出演するジャズメン達は以下の通り

 ピアノ)坪口昌恭(from 坪口昌恭カルテット、DCPRG、ダブセクステット)
     平戸祐介(クオシモード)

 アルトサックス)津上研太(from BOZO、DCPRG)
         宮崎勝央
 
 トランペット)類家心平(from DCPRG)
        市原ひかり

 ベース)永見寿久(from 坪口昌恭カルテット)
     大和康夫(fromアンフォルメル8)

 ドラム)藤井信雄(from ジュリエッタマシーン)
     服部マサツグ



 ピアノはスケジュールアウトのスガ・ダイローに代わり、クオシモードの平戸祐介が第一回よりの連続出演、アルトサックスは夏まで休業中の矢野沙織に代わり、都内ジャズクラブで噂の驚異のリアル・バッパー、宮崎勝央が登場(you-tubeにその凄まじいバップマナーな演奏画像多数あり)、ベースはスケジュールアウトの鈴木正人に代わり、菊地のペン大助手である作曲家の三輪裕也のバンドであり、DCPRGの若手メンバーが3面参加しているジャズバンド「アンフォルメル8(命名菊地)」のベース、期待の新人、大和康夫を起用。彼等のファンダメンタルなビーバップマナーに基づくセッションにMC KIKUCHI&YOSHIO*Oの2MCが絡み、チークタイムには菊地成孔のヴォーカルが色を添える。






<追記2>

 団鬼六氏急逝。追悼文を寄せさせて頂きました。

 http://vobo.jp/oniroku_dan.html

 

HOT HOUSE満員御礼の内に終了

May-14-2011

 

 

 


 いやあ、蓋を開けてみれば、またしても満員御礼、フロアが狭過ぎたぐらいでした。文字情報過多の時代で、何でもツィッターやブログで伝わってしまうとされる昨今ですが、今日のパーティーばかりは(ワタシは、ワタシのライブは、バンドや企画如何に関わらず、常にそうありたい。というか、そうでしかあり得ない。と思っているのですが)、実際に来ないと1ミリも理解出来ないでしょう。ドミューンやストリーミングなど、参加性の意味も大きく変わって行く現代ですが、「実際に来なきゃわかんねえよ。部屋で出来る事なんて、たかが知れてるね」という、現代では上から目線とすら思われかねない台詞を一生吐き続けるのが、参加性と一回生に重きを置くジャズカルチャーのレコンキスタそのものである。と、ワタシは信じて疑いません。

 リンディホッパーと、ロンドン式のソロイストがフロアの中心で(フロアカルチャーマナー)せめぎあい、その傍らに、瀬川成功顧問ご夫妻が手を取って踊っていらっしゃるという図は、ステージ上から見つつ、感動的とすら申し上げて過言ではないとしか思えませんでした。関係各位、参加して下さった皆様全員に、オーガナイザーとして感謝の念を表明させて頂きます。有り難うございました。

 次は7/9、丸の内に陣地を移します。ステージでも申し上げた通り、MC YOSHIO*Oと並ぶ必殺の最終兵器である大儀見元を投入する事で、サルサ以前の、キューバップカルチャーまで手を伸ばし、更なるフロアの混濁と統一に進みたいと思っていますのでお楽しみに(チケットはもう売り出されております)。

 我が国が現在抱えている、静かな非常事態。繰り返しますがワタシは、チャリティーだの、特別企画を今更行う必要はまったく感じていません。この選択は、多くの戦争が繰り返された20世紀に於ける快楽文化の歴史からも明らかです。快楽は日々の備えであり、勤めである。何かが起きたときに、慌ててその事に対して快楽の特別行動を起こす事は、第一には野暮の極地であり、第二には快楽に対する冒涜です。予定通り、いつも通り、市民として楽しく歌舞いて参りましょう。セクシーで可愛く参りましょう。エレガントで野蛮で参りましょう。ワタシはいちナヴィゲーターに過ぎない。公共事業からの助成金も、大企業のスポンサードも、特定の秘密のパトロネージも受けた事が無く、これからも受ける気が全くない、ショービズ水商売一代のワタシが信じているのは、仲間達、そして皆様の力、遊び人の市民の力に他なりません。朝日が射してきました。ごきげんよう。



物書きとしての今年度

May-16-2011

 

 

 




 ライブやパーティーが続きましたので、久しぶりで物書きとしての近況を。震災によって幕を開けた、と前置するのがどういた含意を持つのか、既に難しく成っていますが、音楽家ではなく、物書きとしてのワタシ11年度という新年度に相応しく(音楽家としても、ブルーノート東京との年間契約等、新たな領域への進出はありますけれども)、連載が3つ終わり、新たに2つ始まりました。たった今、その初回を脱稿した所です。

 3つ終了したと言っても、うち2つは「実質上終了」といった態で、第一には「kamipro」の休刊に伴い、実質上の連載が、実質上終了するという(笑)、ダブル実質上になりまして、こればかりは今後どう転ぶか神のみぞ知る。格闘技評論家、論客としての仕事に関しては現在、実質上(トリプル!)アマチュアとなっております。

 また「ファッション・ニュース」で連載していた、ワタシの連載仕事の中でも最も古い「服は何故、音楽を必要とするのか?」が、「ファッション・ニュース」誌の、発売形式の変化によって自動的に終了し、以後、「服は何故、音楽を必要とするのか3(仮題)」として、「WWD」紙に舞台を移動して連載を継続する事が先日決定しました。

 そして、さきほど脱稿したばかりの原稿とはドキュメンタリー映画「イブ・サンローラン」の映画評で、これはキネマ旬報誌の連載開始となりますので、これはまあ、古くからのご贔屓にはお解りの通りの構図で、ワタシは「憂鬱と官能を教えた学校」や「東京大学のアルバート・アイラー」などの著作によって音楽批評家業が牽引され、「サイコロジカル・ボディ・ブルース」によって格闘技批評家業が牽引され、今回は「ユングのサウンドトラック」によって、映画批評家業が牽引されたという具合で、これではまるで二毛作か自給自足の農業従事者ですが、これはおとぼけでもカマトトでもなく、そんなつもりで著作を出しているつもりは全くなく、単に出したい物を好きなタイミングで出しているだけなのですけれども、ブロガー全盛の現代において、雑誌連載という、制限は多いわ、稿料は少ないわという、向かい風な仕事を引き受ける古典的な書き手候補というのが少なく成っているのかもしれません。

 それにしてもワタシは自分のアルバムはあまり聴きかえさないのですが(ライブで演奏するという属性があり、同じ曲が繰り返され、どんどん変化するので)、自分の本、というかむしろ、まだ本になっていない過去の連載原稿を読み返すのが好きで、これは非常に楽しく、我ながら上手い趣味(書くのは趣味ではありませんよ。読むのが。です)を見つけたな、と思っています(因に、あくまで単位時間に還元する限りにおいて。ですが、印税を別にして、最も穫れ高が良い仕事はライブ演奏、次がテレビやラジオへの出演、次が音楽講師、次が連載原稿で、穫れ高最低の王として燦然と輝き続けているのが、コレクションVTRを全部観た上で、一回6000文字書いて、稿料が○○○○円という「服は何故」なのですね。さすがハイモードです)。

 中でも、やはり昨年「リレーションズ」での連載が終わった「恋と声の話」と、「フラウ」で「時事ネタ嫌い(こちらも震災によって出版がペンディングになっていますが、今年中に心機一転で出版しようと思っています)」の前に2年間連載した「21世紀の姫君たちのための、エレガンスの伴奏」というCD紹介の連載、継続しているのかどうかよく解らない(笑)「ROCKS」の「都市の同一性障害」という都市論実験、無くなってしまったMTVのフリーペーパーでやっていた「ベッドサイドMTV」というPV評、そして「服は何故」の、パリコレクションに取材に行ってから後のここ3年分と、「kamipro」のここ4年間のインタビュー(実質)連載は、我ながら「こんな面白くてタメになる連載が何で本にならないのだろう。まあ、連載中に誰も意味が分からなかったのだろうなうははははははは」などと言いながら、夜中に読むのが止まらなく成ったりしています。ワタシの過去原稿に高い利権など生ずる訳も無く、原稿は宙に浮いているばかりですので、どこかの会社が引き取って出版して下さるならば、お気軽にお声がけさえ頂ければ、非常に腰軽く、ひょいひょいお引き受けするのですけれども、まあ現状の出版業界では無理かもしれません。

 そんな中、アマゾンのビジネス書コーナーでの瞬間最大売り上げが2位とか3位とかにまで上昇した、沖野修也さんの「フィルター思考で解を導く」という、DJ業界発初(言いづらくて申し訳ありません)のビジネス書の出版を記念し、沖野さんとトークショーをします(詳しくはマネージャーのブログをどうぞ)、沖野さんのようなビジネスの成功者と、ワタシの様な自分の店(公演)を繁盛させるだけの水商売一代記が同席し、ビジネスについて話すなど、おこがましいわけですが、沖野さんのご指名を有り難く引き受けさせて頂く事にした次第。

 また、音楽家としての話に戻りますが、ダブセクステット、ペペ、HOT HOUSEの次にやって参りますのは、ジャズドミューンでおなじみ、「どこにもないランド」の藤本敦夫さんとの、二人だけのインプロのライブです。これはジャンルとしては倉地久美男との共演と同じ枠の、まあいってみれば、あらゆる意味で最もヤバい音楽と言いますか(笑)、今や我が国では「インプロヴァイザー(即興音楽家)」という職業は、何かちょっと文化的な威厳さえ感じさせる、実に立派な職業に成長していますが、水商売感が強過ぎたか、いつのまにやら誰にも「インプロヴァイザー」とは思ってもらえなくなってしまった(笑)ワタシと、ワタシどころではない、完全な天才でありながら、もう時代を何周も追い抜きすぎて、最早何者なのかも解らなく成っているという偉大な先達である藤本さんとの、二人だけの、しかも完全即興ですから、ワタシの予想だと、一番解っているのが藤本さん、二番目がワタシで、ほとんど全員のお客様には、良いか悪いかの遥か以前に、何が起こっているのか、誰にも解らない。というハードコアな事になる可能性がかなり高く、ものすごく楽しみにしています。

 ワタシと藤本さんは互いにーー臆面も無くーーあなたの活動を最も理解しているのは自分だ。いや、自分だけだ。等とメールで書きあっています(笑)。黒人文化では共謀者をブラザーと呼びますが、ワタシとブラザー関係でいるのは、ひょっとすると藤本さんだけかも知れない。とはいえ、初めて二人でやるのですが(笑)。

 おっと、物書きとしての最大のニュースを忘れていました。文字通り幻の大著「M/D」が文庫になることはお伝えした通りですが、何とボーナスページとして、中山康樹先生と我々の鼎談が入りますのでお楽しみに。ワタシと大谷君の共著作は、永遠に古く成らず、いつまでも新鮮である代わりに、新しさも解りずらいという(笑)奇妙なタイム感がありますので、現在でも充分に再読に耐えうる。というか、寝かせば寝かすほど面白い本ばかりですので、初読の方も再読の方もお楽しみに。

 また、新装開店するすると言っておきながらなかなかしない新サイトですが、マジで今月中には開始しますので、こちらもお楽しみに。整理しますと、「M/D」文庫化、連載は今後しばらくキネ旬とWWD、そして藤本さんとのセッション。という事ですね。6/6のDCPRG@リキッドルーム3時間。即ち震災後初の東京でのDCPRGのギグについては次回。とはいえもうチケット無くなりそうです。誰もの期待を遥かに上回る、エゲつない演奏になると予想されますのでお楽しみに。ごきげんよう。情報は総て、マネージャーのブログにて。



アルバム完成/DCPRGへ

May-23-2011

 

 

 






<いちファンより>

空腹のときに見る日記ではなかった、と後悔しています。

デトコペと略した発音ができないことを知ったのも少しばかりの後悔かもしれません。ジュテーム

○×△




<Re:いちファンより>

いやいやいやいやいや。ご飯を食べて落ち着いて考えて下さい。出来るかもしれないですよ?ねえ?

きくち




<おへんじありがとうございます>

今日も日記を見ました
さっき餃子を食べたはずなのに、やはり肉が食いたくなる日記で大変困ります。

というわけで、かなりの量を食べたはずなのですが、すばらしい画像なことには変わりなかったようです。

DCPRGでデトコペと発音できそうな他の略…
déjà-vu coup d'Etat paix rendez-vous Gemeaux
うっかりフランス語脳で考えた上にデトコペではなくなってしまいました。
今日はこれからドイツ語です。

うちだきょうこさんがかわいいですが、水曜のくろたにともかさんもたいへんかわいらしいです。


○×△





<Re:おへんじありがとうございます>

たとえば、Dをデトロイト、Cをコペンハーゲン(英語ならCなので)とするならば、もう残りのPRG関係なくDCだけで「デトコペ」です。ほかにもいくらでもあります。


*このやりとりをアップしてもよろしいでしょうか?


きくち





<!!!!!!!!!!>


地理には大変疎かったです。
語学だけでなく社会化も学ぼうと思いました
*一、二を争う不得意分野です

 
かまいませんよ!!!!!
日記に書かれるなんて光栄です!


○×△






 現在、奇しくも一日おきに連日でTDが終了した類家心平4ピースバンドのアルバム(総合プロデュース/作曲1曲)とナオミ&ゴロー&菊地成孔のアルバム(伊藤ゴロー氏と共同プロデュース/作詞作曲1曲)を聴きながら書いております。

 震災またぎの2アルバムになりましたが、途中でスタジオが揺れて録音が中断したのが功を奏したか(笑)、プロデューサーが言うのも野暮ったいですが、両作ともとても素晴らしく、これは洒落ではなく、震災を挟んだ事で、実のところ集中力が途中で途切れまして、というか、感受性が途中で一度解離したような格好で、例えるならば授業中に一瞬眠りに落ちてしまった様な過程を含んでいる訳ですが、そこがとてもよく働いていると思われます。

 プロデューサーとして心がけた事は、聴き疲れのしない、ちょっと前だとホスピタリティなどと言われたかもしれない一種の軽さでして、ワタシはどちらかと言えば濃厚な物が得意な方なのですが、そうした人格によくある特性として、根本に軽さがあり、普段それがなかなか作品に反映されないのですが、ここにはそれが反映されている気がします。濃厚で軽い。などというと、90年代に一世を風靡したソースの褒め方。みたいな感じですが、発売はどちらも盛夏になりますので、「粋な夜電波」などで先行オンエアなどしてゆくつもりですのでお楽しみに。

 と、そうこうしている間にも、毎週金曜日に3週連続でライブがあった今月も残す所10日となりまして、イベントはジャズドミューンが31日にありますが、その次は6/6のDCPRGになります↓



DCPRG“ALTER WAR&POLYPHONIC PEACE”

■会場
LIQUIDROOM

■日時
2011年6月6日(月)

OPEN 18:30
START 19:30

■TICKET
前売り\4,500(税込み)
all standing
drink別


■発売PG
チケットぴあ 0570-02-9999 Pコード:139-752
LAWSON TICKET 0570-084-003 Lコード:78655
イープラス
リキッドルーム店頭

■発売日
各プレイガイド   2011/5/14(土)10:00~
リキッドルーム店頭 2011/5/14(土)17:00~

主催 LIQUIDROOM
企画制作 East Works Entertainment Inc./LIQUIDROOM
お問合せ LIQUIDROOM 03-5464-0800
http://www.liquidroom.net

 

 まだ発表してはいけないだの、いややっぱり良いだのと、情報公開が二転三転しておりますが、どうせもうギリギリですし、フライングしてしまうならばゲストとしてアート・リンゼイが数曲加わる予定です。実際には「アイラヴ・プー」で、震災後も新宿ピットインで演奏していますが、あれは何せ2曲だけの、しかも義援(菊地雅章氏への。ワタシここが大変気に入っています・笑)ライブでしたので、フルメンバーが揃い、しかもゲストも入れて、がっつり3時間コースのギグを東京で行うのは震災後初になります。

 ライブのタイトルは言わずもがなで、当欄を遡って頂ければお解りの通り、ワタシ08年あたりから、この国に<別の戦争>が起こると予感していました。そしてそれを迎え撃つ平和の形というものは、繋がったりひとつに成ったりするばかりではなく、マルチプルでポリフォニックなものであると思われます。アルターにポリフォニックを対置させる訳で、これは1対多でもなし、戦闘の方法としては最新です。

 DCPRGの活動再開は、再開直後にいくつかの媒体で申し上げた通り、なかば受動的な物です(「マイケル・ヘンダースン・エレクトリック・マイルス・リユニオン・バンド」の日本公演前座としてワンナイトリユニオンで。という流れ。ところがこのバンド企画のみでポシャり)。しかし、昨年の野音が、野音史上トップ3に入る豪雨に恵まれ、クラウドが「まるで野戦の兵士のようだ」と思ってから、たったの半年、ライブ回数にして6回目にしてこの騒ぎに成りました。要するに、結成してデビューにこぎつけたらすぐに9/11があり、活動再開したらすぐに3/11があった訳です。

 マイルス没後10年だといってデヴューしたら9/11があり、活動を再開し、マイルス没後20年だといって盛り上がっていたら3/11があった。では、没後30年に何11があるか解ったものではありませんので。というのは4割程度は冗談ですが、いきなりですがこのバンドこのたび改名することにしました。DCPRGという略称はそのままに「デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン」という正式名称はの使用は年内で終了します。毎度おなじみ前例のない事がやりたくて仕方が無い、もうすぐ48歳でありまして<略称は同じだが正式名称がどんどん変わるバンド>という事をしてみたくなったのですね。これもフライングですが、今年中にニューアルバムを出します。

 いらっしゃる方総ての方の想像を遥かに超える演奏を致しますので、過度の高揚と動揺が予想されます。ぜひ軽装でお越し下さい(重装でも構いませんが)。チケットはまだ半分ぐらい残っております。






<キャプション>


 デートコースつったら肉でしょ。という訳で、プレゴで出ている、豚の腕を使ったハム。それをブロード(コンソメ)で、春野菜とボイルしたもの。まあ、ハムがメインのじゃがいものないポトフみたいなもの。もの凄い弾力と歯ごたえで、ラルド(脂)もしっかり乗った男飯。ハムソーセージマニアには垂涎の一皿。

 
 ここんとこ8~9年のイタリアの各地方の白を飲む事が多いのだが、シャルドネと言わずリースリングと言わずゲヴェルツと言わずどれも旨く、感心しきり。あんまりワインなんか知らない無頼派の態でトラットリア(ビストロじゃないよ。フランスの8~9年の白は難しい)に行き、しっかりした、しかし仕上がりが軽そうな肉料理を選んで、「ワインの事ぜんぜん知らないんだけど、さっきの肉料理に合いそうな、08~9年の白で良いのがあったら、出してもらえませんか?産地も葡萄も気にしないんで。肉に白なんて申し訳ないんですけど、好きでね」とかいうと、一目置かれるわ、実際に旨いわで良い事づくし。写真はブリッコラで出て来たカヴァレッリ/ランパネートの08(シャルドネ)と、プレゴで出て来たカバルチーナ/アメデオの09(ソーヴィニオンブラン)。






  菊地成孔の1行(厳密には数行)情報



<マネージャーのブログが引っ越しました>

* 2011年からフォームも新たに立ち上がりました。当欄以上に迅速かつ詳細ですので、菊地成孔の刻一刻と更新される日々の情報はコチラで↓


菊地成孔マネージャーの速報(ブログ)
http://naganumahiroyuki.seesaa.net/?1296834004


<「菊地成孔の粋な夜電波」>

*絶賛オンエア中↓

http://www.tbsradio.jp/denpa/



<菊地成孔の全集「闘争のエチカ」>

*アマゾンで買えるように成りました↓


「闘争のエチカ」商品説明(過去ログ)
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=100812132059

「闘争のエチカ」予告編(you-tube)
http://www.youtube.com/watch?v=M4Zy-TfGO_w






<DCPRG活動再開ライブ(日比谷野音)の音源を、DVDR+写真集の形で販売します>

*DVD-Rだけでも買う事ができ、写真集は受注印刷(プリントオンデマンド)に。DVDRになったのは、CDだと1枚に入りきらないからで、動画はありません。詳細は後日↓
http://natalie.mu/music/news/44853 






<「オトトイのダウンロード数的には記録的な売れ行きだ」と高見Pが言っていたけれども、本当でしょうか>

* DCPRG活動再開ライブ2京都KBSホール/ボロフェスタのライブ音源を高音質配信にて販売中↓
http://ototoy.jp/feature/index.php/2011012801






 
菊地成孔の関連サイト



<ニューメロ・トーキョー>
http://numero.fusosha.co.jp/extra/ito_kikuchi/

伊藤俊治先生との対談。という、脱力でも入力でもない、絶妙な湯加減のオトナのカルチャー対談になっております。連載のタイトルは「遊び飽きかけている遊び人達へ」。



<マトグロッソ>
http://www.matogrosso.jp/
http://matogrosso.jp/soundtrack/soundtrack-03.html

「マットグロッソ」というウエブマガジンです。小説にサントラはあり得るか?といった、まあ、文芸批評と音楽批評をくっつけたお遊びですね。

<「服何故01」>
http://ksuque.blog.drecom.jp/archive/278
菊地成孔のモード批評書「服は何故、音楽を必要としているのか?」の映像サイト(ファンの方が作って下さいました)です。これは本当に凄い。読みながら観ると、情報量が5冊分に増え、5倍お得。


<AYAKO OKUNO>
http://www.ayakookuno.com/main/top.html

現在、菊地成孔が着用している帽子の90%はAYAKO OKUNOで発注した一点ものです。デザイナーの奥野さんは関西在住ですが、全国どこからでも受注されていますので、菊地のアレに似た感じの(或は、まったく同じものを)ものを、といった注文から、あなた独自のオリジナルな発注までオーケーです。



「ふたりのヌーヴェルヴァーグ」評+α

May-30-2011

 

 

 




 *冒頭に追記(重要)

 ワタシが主催する「ペンギン音楽大学」ですが、今年は理論科初等のみ外部から募集します。音楽理論をドレミのドから懇切丁寧に学ぶ初心者クラスです。

 授業開始は7月より、募集期間は本日より6月30日まで。としますので、入学希望、もしくは資料が欲しいという方は、「ペン大入学希望」もしくは「ペン大要項希望」というタイトルで、当サイトのファンメール宛でメールを下さい。折り返し詳細をお送り致します。店員に達しますとお断りする場合がありますので善は急げでお早めに(笑)。

 また「憂鬱と官能を教えた学校YV」のスタジオ聴講卒業の皆様へ。この7月より皆さんを編集するクラスの準備が整いました。こちらも編入を希望される方はタイトルを「ペン大編入希望(テレビ卒)」としてメールを下さい。締め切りは同じく、6月30日です。


*追記の追記「わたし沖縄(とか、他にもいろいろ)在住なので、予め通えないことは決まっているのですが、要項だけ頂きたく」というメールがいくつか届いておりますが、ケチ臭くて申し訳ありませんが(笑)。それはダメよさすがに(笑)。



 
       *   *    *     *     *

 



 06年にトリュフォーの評伝を、そして昨年、ゴダールの評伝である大著(未訳)「ゴダール」を書いたアントワーヌ・ド・ベックが脚本を書いた事で、ゴダーディストとトリュフォニアンから注目を集めていた「ふたりのヌーヴェルヴァーグ~ゴダールとトリュフォー」のマスコミ試写に行って来ました(於六本木シネマート)。

 *「ふたりのヌーヴェルヴァーグ」公式サイト
 http://www.cetera.co.jp/nv/


 この作品ドキュメンタリー映画でありまして、フランス産のドキュメンタリー映画と言えば、現在発売中の「キネマ旬報」で「イブサンローラン」について書いたばかりなのですが、

*「イブサンローラン」公式サイト
http://www.ysl-movie.com/


                                                      

 原稿の中で、敢えてこの「イブサンローラン」を、「バスキアのすべて」と「ディスイスイット」と比較しており(軽く。文字数の少ない連載なので)、


 *「バスキアのすべて」公式サイト(未見の方は予告編だけでも。あちこちのメディアで語っている80年代NWと50年代ビバップのマリアージュ)
 http://basquiat-all.jp/


 それはつまり、現在というのは、「なにかひとネタ」あれば、20世紀の偉人に関する、ある程度以上のクオリティを持ったドキュメンタリー映画(それは、若干残念な事に、「テレビ番組」でも大した差はないのですが)を作る/観る事が、20世紀に比べると遥かに容易な状況のことであり、とはいえこれは悪事ではなく、20世紀の偉人を描いた誠実なドキュメンタリー映画が、数多く待機中なのである。という状況である中、何をするのか?という話で、「イブサンローラン」の、ある種信じがたいほどの突出した「悲しさ」は、第一には、ここでの「なにかひとネタ」が、「サンローランの<公私に渡るパートナー>であった、ピエール・ベルジェ(念のため。男性)の大規模な競売」であり(サンローランの生前、共に蒐集してきた、とてつもない質量の美術品群を、サンローランの死に際して、一切合切すべてを競売にかけた。ネタバレになるが、映画のラストはその競売シーンで、もの凄い値で売却されて行くところを、別室のベルジェが静かに見つめている)、第二には「未亡人」であるベルジェが、文学者と政治家という二つの素養を持った未亡人であるが故、「美とは悲しい」という太古からの原理を、静かに謳い上げる、その、喪の詠唱の調子が、余りにも19世紀的(詩的/文学的)であるが故、喪失の悲しさとハーモニーを奏ですぎる。というに於いて、観るべき度98(←当欄読者対象)詳しくはキネマ旬報で。といった感じなのですが、さて今作、予め「二人の革命児、親友から仇敵へ」というストーリーがすっかり行き渡っている。つまり「悲しい結末」がマーケットに浸透しきっているこの作品の「なにかひとネタ」が何か?という点に、勢い目が行ってしまう訳です。

 結論から申し上げれば、本作での「なにかひとネタ」は複合的で、「ヌーヴェルヴァーグ50周年(59年発。という判断で。フランス公開は10年)、「ゴダールの新作(ソシアリズム)公開に当てる」「いくつかの新たな映像や音声の発掘」「<アメリカの夜>に対し、ゴダールが送った血判状、それに対するトリュフォーの反論、その詳細」「脚本家がゴダールの評伝を発表したばかり」といった箇条書きが可能な訳で、前述の、ベルジェのオークション、バスキアのインタビュー映像の発掘、マイケルジャクソンがツアーの記録映像を撮影していた。といった諸「ひとネタ」に比べると弱いと言えば弱いのですが、これは絶対的な弱さではなく、でかいひとネタか、小さなネタの複合体かという、質的な物です。

 そして、「意外にもマニア向けではなく、まるで若者向けのテレビ教養番組の様な、親切で丁寧なヌーヴェルヴァーグの総括/入門編」である本作はの「悲しみ」の在処は、私見では、今や神話とも言えるゴダールとトリュフォーの愛にも似た共闘から、やはり愛にも似た決別へ。という事実にはなく、というよりも、本作は「悲しみ」の官能性によって作品を塗りつぶすという選択肢を取らず(かといって、過去という現実を追うドキュメンタリー映画が、「過去の本質」でもある悲しさを完全に排してしまう。ということも構造的に無理であって)、結果として、本作に現在の姿を現さないジャン・ピエール・レオー(因に本作にはゴダールをはじめとした、あらゆる関係者が現在の姿を現さない、言わば純粋にアーカイヴ的なドキュメンタリー映画)の悲しみを陰画的に、慎み深くほんkめかし、更に深読めば、レオーが姿を現せない事それ自体によって、レオーが被った「引き裂かれ」を、フランス映画、並びに映画史自体が被った「懐かしい痛み」として、更には「両親が離婚し、そして片方が亡くなった子供の悲しみ」という、フランス社会においては数段上の一般性を持った次元を重畳しようというそぶりを取っているように思えます。

 フランス映画と精神分析の双方のマニアであらば御存知の通り、レオーは「アメリカの夜」に端を発した(というか、溜まっていた物が爆発した)ゴダールとトリュフォーの決別以降、精神を病み、見かねたトリュフォーが主治医としてジャック・ラカン本人をあてがいます(ラカンはその死――81年――に際するまでレオーを治療)。しかしその成り行きは、フランス映画と精神分析のマニアでなくとも「どう見ても、オマエ(トリュフォー)が壊したろレオーを」と思わざるを得ないでしょう。トリュフォーの死はラカンの死後3年。レオーとゴダールは言うまでもなく存命中で、前述の通り、本作には登場しません(厳密には、開始早々にゴダールのインタビュー音声が入るが、オリジナル録音ではない)。

 とはいっても「レオー可哀想だよね~。なんだよそれもう~」といった、強い共感喚起の力はありません。レオーが実質上の半隠遁的な状態にある事、ゴダールが80を数えて尚矍鑠としている事(因にレオーは67歳)も含め、ワタシ個人が感じた痛みや悲しみは、少なくとも本作の字幕監修を行った山田宏一氏がフライヤーに書いている「たとえ何も知らなくとも、涙なくしては見られない、感動の映画的記録」という程ではありませんでした。勿論、山田氏が心にもない過剰なセールストークなど行うような人物かどうかは皆さん御存知の通りです。ワタシは、この映画に、日本人にのみ特化された悲しみがあるならば、それは山田宏一氏の精神と肉体を透過した形でのみ、幾ばくか強く感得出来るとすら思います。

 しかし、悲しみがないと愚作である。という法則などどこにもありません。再度強調しますが「ヌーヴェルヴァーグとかゴダールとかよく聞くんだけど、実際何も知らないんだよね。菊地成孔の本とか音楽とかと関係ありそうだし。でも、今更<ヌーヴェルヴァーグって何ですか?>なんて誰にも聞けないじゃん?」といったビギナーの方々にとっては観るべき度100点満点で400点の本作は、すれっからしのヌーヴェルヴァーグマニアにも、3/11以降の世界であろうとも58年周辺のパリに対する愛に全く揺るぎのない人々にとっても100点満点中平均で80越えは間違いありません。

 特に、ドキュメンタリー映画における「悲しみ」と並ぶセールスポイントとして「驚き」がありますが、ワタシが本作から受けた最大の「驚き」は、「ええー?<アメリカの夜をたたき台にした二人のディスりあい>って、こんな程度のものだったわけ!!?」という、結構大きな物でした。最重要ネタバレに属するので、内容はかけませんが、本作で示される限りにおいて、ここでのディス合戦は、仲良し同士の父繰り合いにしか思えません(勿論、良い意味で)。

 これは21世紀でのディス平均値(=ディス無視ならびに、ディス引っ込め速度、及びディス有耶無耶にしてしまう等々、あらゆるディス関連の平均値)というものが、インターネットによって飛躍的に上がった。という見方も出来ますが、19世紀まで決闘が合法だった、血に飢えたフランスに於いて、1973年のゴダールのディスは、誰が観ても「アメリカの夜」に感動してしまった結果(そこに私見を重ねれば、拙著「ユングのサウンドトラック」にある通り、そこでは、10年前に自分と仲違いした音楽家=ドルリューが、トリュフォーとこれ以上ないほどの、見せつける様な素晴らしいマリアージュを奏で、ゴダールのルグラン・コンプレックス、アンヌ/アンナ・コンプレックスを派手に着火させてしまい)、嫉妬が暴発しただけの、現代語に訳せば、要するに萌えギレでありますし、トリュフォーの反論も、ゴダールの似非社会主義者ぶりというアキレス腱を遠慮会釈無く突き刺したエゲツない物とはいえ、どう見ても牧歌的としか言いようの無い物で、これによって生涯の決別という結果に成ったのであれば(成ったのだが)、そりゃまあ、天才というのはデリケートだろうからね。といった、突き放したリアリティ以上のものはありません。

 歴史にタラレバは無意味と言いますが、ワタシは、トリュフォーさえ生きていれば、二人は、恐らく1990年には仲直りしていたと思いますし、ゴダールのルグラン&アンヌ/アンナ・コンプレックスが、ジガ・ヴェルトフ集団という麻薬にさえ手を出していなければ、ゴダールは「アメリカの夜」を普通に褒めた讃えたと思います。製作チームは、多くの観客を怒らせるとは言わないまでも、軽く苦言を呈されるであろういくつかのシーンを除けば非常に誠実に資料映像を配置しており、中でも「アメリカの夜」に対して、前年の「万事快調」を対置させるという手さばきは白眉で、素晴らしい両作の画面が、実はほとんど同じである。という事実(「アメリカの夜」と双生児性を持っているのはむしろ「軽蔑」であり、こちらも召還されるものの)を示した上で、その上に両者のディスりが朗読されるというシーンは、悲しみに対して慎重であるかの如き本作の中の悲しみの頂点とも言えるかもしれません。同一性ではなく対称性を選択した結果「アメリカの夜」と「ヒア&ゼア こことよそ」が並列されたら、総ては台無しになったでしょう。

 何れにせよマニアは観るでしょうから、ワタシ個人が強調したい事は、この時期この題材で、ビギナー必見の、半ば教育的ですらある作品が出来た。という事実であり、それに関する考察はまた別の機会で、という事と、本作ならびに、本作によって(またしても、あっというまに)開催されるプティ・ゴダールフェアに上映される過去作品も大変よろしいけれども、ビギナー諸氏にはやはり、生きているキレキレの老人としてのゴダールに接する事が出来る「ゴダール・ソシアリズム」との、可能な限りの邂逅を第一にお勧めします。という事です。社会主義に関する、難しい政治的な映画でも何でもありませんので。



 と、当欄を映画評に使ってはアレですが、キネマ旬報の執筆陣に加えて頂いたという事で、試写に行く機会やプレス用のDVDを頂戴する機会が若干増え、暮らしの中に映画鑑賞の時間がしめるパーセンテージが若干上がっています(因にキネ旬での次回は「パイレーツオブカリビアン」を扱います)。あとは「粋な夜電波」によって、選曲する時間も若干増えました(通常はただ好きな物を聴くだけなので)。しかし、3/11以降、最も増えたのがテレビジョンを観る時間で、これが困った事に習慣化してしまったので(元々テレビジョンが嫌いでもなんでもなく、むしろ大好きだったので。一度断ち切った麻薬に手を出したが如し)、結構な時間を取られるのですが、これではまるで国家の予算案だが、今の所テレビジョン/選曲/映画鑑賞の増額に対して何を充当しているかというと、これが何と運動する時間で、辛うじてストレッチまでは途切れずにやってはいるものの、有酸素/無酸素を問わず、3/11以降は運動を全くしなく成ってしまったので、とうとう7キログラム太ってしまい、現在ダイエット中。というより、運動する習慣を取り戻すべく努力中。なのですが、こういった事は努力でどうにかなるものではなく、ふとした切っ掛けによって何事も無かったように取り戻すというのがナチュラルな流れなので、余り気にせず、少々体が重いなと思いながら日々暮らしています。

 31日は久しぶりのジャズドミューン、そして6月6日はアート・リンゼイ氏を迎えての(といっても、2~3曲参加するだけ。といっても3曲参加したら約1時間・笑)のDCPRGとなります。月曜である事が申し訳ないばかりで、これを逃してもフジロックがあると言えばありますけれども、フジはフジで別物ですし、何せメンバーが全員揃い、アート・リンゼイ氏まで付いてくる、3/11以後最初の、東京でのフルタイムギグというのは、主幹であるワタシにもどんなアガりかたをするか解ったものではないので、楽しみであるというよりも、幾分恐ろしくさえあります(笑)。7月9日には「HOT HOUSE日本橋」があり、こちらももう、間違いなくヤバいパーティーに成る事請け合いの既にチケット発売中、8月には3年ぶりでダブセクステットのツアーもあり、更にはナオミ&ゴロー&菊地成孔のアルバムも類家心平4ピースバンドのアルバムもリリースされる夏です。と、いかにも凄い事の様な書き方に成っていますが、今までの夏平均を大きく越える仕事量ではありません。違うのは世界が3/11以後であり、最初の夏なのだ。という事です。あなたの奥深くに後退した物が外部に露出するまでの時間と抵抗値が上がっているとワタシは感じています。音楽がそれを、驚くべき強さで解き放つでしょう。ごきげんよう。



 *新サイトは6月14日より開設となりました。





<キャプション>

 基本的に外食、外呑派なのだが、そうなると馬鹿呑みパーティーがなかなか出来ない(実際、そうでもないのだけれども・笑・まあ、流れ上)。そこで、早めの誕生パーティーという名目で、選曲家の中村ムネユキ君や作曲家でペン大講師補佐の三輪君等と家呑み馬鹿呑みのワインパーティーを実施、メンバーの総力を結集して好き放題した結果、料理屋で呑んだら30万は固いという、半ば無茶苦茶なほどの事に成ってしまった。

 写真はシャトーラネッサンの82、シャトーグランピュイラローズの81(中村君ゲット)、シャトーフジャックの99(三輪君ゲット)、ベリンジャープライヴェートリザーブの05(菊地くんゲット)だが、他にも菊地くんゲットのスーパートスカーナ、センティメンテ04だの、聞いた事も無いスペインのターブルだと、なんだかんだで8本空き、音源も3人で特上を持ち寄って聴きまくり、狂ったように盛り上がった結果、いつしかそのまま外に繰り出し(笑)、27時から歌舞伎町「魚心」という寿司屋で飲み食いし直し、つまり家呑み発で結局外呑みとなった(笑)。しかし、良いワインはまったく悪酔いせず、というか、そもそも酔った感じすら全くなく、ひたすら多幸的になるばかりで、翌日は「昨日のアレは夢だったんじゃないか」というほどすっきり。実際夢だったのではないか。


 
 一方クレッソニエールにて。星付き焼き鳥屋のそれに匹敵する、素晴らしいプーレのグリエ。普段はグラスのニコラフィアットとニュメロアンを2杯ずつでアントレはサラダ、メインは良く焼いたプーレ。デセールはマドレーヌといった、小鳥の様な慎ましさ。それでもビストロやブラッスリー帰りは良い湯加減のほろ酔いなので、やはり家呑みというのは全然違う文化だなと思うばかり。



 惜しまれつつ6月20日に閉店する六本木の喫茶店「貴奈(キナ)」にて。身体が重いなあ。と思いながら「ふたりのヌーヴェルヴァーグ」のフライヤーを読む。60年代末期の六本木文化に触れたくば詣でよ。何せ隣は「ナバーナ」である。










菊地成孔の1行(厳密には数行)情報



<マネージャーのブログが引っ越しました>

2011年からフォームも新たに立ち上がりました。当欄以上に迅速かつ詳細ですので、菊地成孔の刻一刻と更新される日々の情報はコチラで↓


菊地成孔マネージャーの速報(ブログ)
http://naganumahiroyuki.seesaa.net/?1296834004




<「菊地成孔の粋な夜電波」>


絶賛オンエア中↓
http://www.tbsradio.jp/denpa/





<菊地成孔の全集「闘争のエチカ」>

*アマゾンで買えるように成りました↓


「闘争のエチカ」商品説明(過去ログ)
http://kikuchinaruyoshi.com/dernieres.php?n=100812132059

「闘争のエチカ」予告編(you-tube)
http://www.youtube.com/watch?v=M4Zy-TfGO_w






<DCPRG活動再開ライブ(日比谷野音)の音源を、DVDR+写真集の形で販売します>

*DVD-Rだけでも買う事ができ、写真集は受注印刷(プリントオンデマンド)に。DVDRになったのは、CDだと1枚に入りきらないからで、動画はありません。詳細は後日↓
http://natalie.mu/music/news/44853 






<「オトトイのダウンロード数的には記録的な売れ行きだ」と高見Pが言っていたけれども、本当でしょうか>

* DCPRG活動再開ライブ2京都KBSホール/ボロフェスタのライブ音源を高音質配信にて販売中↓
http://ototoy.jp/feature/index.php/2011012801






 
菊地成孔の関連サイト



<ニューメロ・トーキョー>
http://numero.fusosha.co.jp/extra/ito_kikuchi/

伊藤俊治先生との対談。という、脱力でも入力でもない、絶妙な湯加減のオトナのカルチャー対談になっております。連載のタイトルは「遊び飽きかけている遊び人達へ」。



<マトグロッソ>
http://www.matogrosso.jp/
http://matogrosso.jp/soundtrack/soundtrack-03.html

「マットグロッソ」というウエブマガジンです。小説にサントラはあり得るか?といった、まあ、文芸批評と音楽批評をくっつけたお遊びですね。

<「服何故01」>
http://ksuque.blog.drecom.jp/archive/278
菊地成孔のモード批評書「服は何故、音楽を必要としているのか?」の映像サイト(ファンの方が作って下さいました)です。これは本当に凄い。読みながら観ると、情報量が5冊分に増え、5倍お得。


<AYAKO OKUNO>
http://www.ayakookuno.com/main/top.html

現在、菊地成孔が着用している帽子の90%はAYAKO OKUNOで発注した一点ものです。デザイナーの奥野さんは関西在住ですが、全国どこからでも受注されていますので、菊地のアレに似た感じの(或は、まったく同じものを)ものを、といった注文から、あなた独自のオリジナルな発注までオーケーです。